埼玉県と長野県を唯一繋ぐ「旧中津川林道」を走ったら凄まじい悪路で生きた心地がしなかった

秩父市

日本全国に存在する都道府県境…それは明治の廃藩置県の時代から殆ど変わる事なく残っているもので、ごく一部の越県合併といった出来事を除けば我々が生まれるずっと前から同じ場所に存在し続けているというのが当然で、その境目が生活圏関係なしに街のど真ん中に走っている箇所にもあれば、これからお伝えする三国峠のような稀代の難所にもあるという事だ。

長野県南佐久郡 川上村

長野県最東端に位置する「日本一のレタス村」南佐久郡川上村を訪問した直後、その最奥の集落である梓山地区から三国峠を経て埼玉県方面に抜けられるという事を知っていたのだが、かなりの悪路で夜間・冬季通行止めになるような酷い道だとも聞いていた。一体どのような道なのか実走を試みた。

長野県南佐久郡 川上村

長野県側の峠の入口にはこのような看板が。「川上秩父線県道昇格早期実現 川上村・大滝村県道昇格期成同盟会」とある。この大滝村というのは現在の埼玉県秩父市大滝地区の事である。この難所の峠道を県道に昇格してもっと快適かつ安全に通れるようにとの願いはとりわけ長野県側には強くあるかのようだ。埼玉県と山梨県との境には既に国道140号雁坂トンネルがあるが、将来あのような道路が出来る見込みは…今のところ無さそうっすね…

長野県南佐久郡 川上村

長野県側の峠道の手前ギリギリまで外国人研修生があくせく働くレタス畑が広がっていて、うねうねとした道以外に何も無くなったあたりから5キロ程度登っていくと割と簡単に三国峠まで辿り着く事ができる。途中の道はちゃんと舗装してある道路だし難易度は低い。

長野県南佐久郡 川上村

レタス村と外国人研修生がゴニョゴニョと問題ですっかり有名になった川上村とはここでお別れとなる。川上村の村名を示す標識は酷道マニアらしいライダーの皆様が時折訪れては記念に貼り付けていくステッカーの数々で汚されていてまるで神社の千社札のそれを見ているかのような器物破損っぷり。

長野県南佐久郡 川上村

そんな川上村を含めた長野・山梨・東京・埼玉の一都三県に跨るここいら一帯を「秩父多摩甲斐国立公園」というそうです。体の一部がむず痒くなってきそうな名前ですがこの機会に是非とも覚えておきましょう。チチブ・タマ・カイ国立公園。

埼玉県秩父市 大滝

ここ三国峠(標高1740メートル)は群馬・埼玉・長野の三県の境にそびえる三国山(標高1834メートル)から南側にある峠で、三国山の三県境はそのまんま旧制の上野国・武蔵国・信濃国の旧三国の境目である。さらにそこから北西側3キロの位置に、30年前の8月12日に日航機123便が墜落事故を起こした通称「御巣鷹の尾根」がある。まあ、厳密には高天原山の尾根なんですが、墜落直前の機体を目撃したのは川上村に住む主婦だというので、かなり近い場所であるには違いない。

埼玉県秩父市 大滝

土建国家日本の恩恵を受けるおかげで、例えば三重・滋賀両県を跨ぐ石榑峠など全国あちこちの峠越えの難所にトンネルが出来て「酷道」と呼べる道もじわじわ減りつつある昨今だが、三国峠は今でもワイルドな地肌むき出しの法面が両側に迫る切り通しになっていて、峠に辿り着いたとしても全く安らぐ事ができない。

埼玉県秩父市 大滝

ワイルドな切り通しの真ん中あたりでアスファルトの舗装が切れている。実は手前の未舗装路なのが埼玉県側だ。峠の上には車の横でアンテナをビンビン立てて張り込んでいるアマチュア無線マニアのおじさんが何組かいるが、ドライブに来ました的なラブラブカッポーなんぞはまず居ない。実に男臭い峠であるが、都心に近い海や河川敷やプールとは違ってソッチ系のアニキはどこにも居ない。

埼玉県秩父市 大滝

この荒々しい峠道を越えて埼玉県側へ車で抜けられるようになったのは昭和41(1966)年の事。国営の有料林道として開通した「中津川林道」で三国峠から約20キロ下って秩父市大滝の最奥部の集落である中津川地区に抜けられる。現在は秩父市の市道大滝幹線17号線で、昭和57(1982)年に無料開放されている。長野から岐阜に抜けても中津川ですが、長野から埼玉に抜けても中津川なんですね。

埼玉県秩父市 大滝

切り通しを抜けた所に公衆便所らしき掘っ立て小屋がある。ここから三国山などに登る登山客もまあまあ結構居るようで、ちゃんとトイレまで設置されている。ここが「埼玉県最西端の公衆便所」になります。皆様どうぞよろしくお願いします。

埼玉県秩父市 大滝

長野から埼玉にショートカットできる道だと思い何にも考えずに県境越えを済ませて安穏としているとこの先とんでもない目に遭う事になる。720万人の埼玉県民よ刮目せよ。この旧中津川林道はそう簡単に家には帰らせてくれんぞ。18キロの未舗装路は容赦無くタイヤを痛めつけるし、埼玉には比較的多く生息するDQN御用達のシャコタンカーなどがこの道を通ろうものならたちまち車の底が引っ掛かって動けなくなり遭難必至。エアロバキバキどころではない痛手を食らう事だろう。

埼玉県秩父市 大滝

という訳で意味深な深呼吸を行い覚悟を決めて旧中津川林道を下る事に。この林道の注意点としては砂利どころか岩がゴロゴロ転がる相当な悪路に加えて、午後5時以降(6~8月は午後6時以降)になると通行止めとなり、夜は一切通れない。そして今どき「制限時速15キロ」というノロノロ運転で通行しなければならない事だ。さらにここいらは積雪も酷いので12~4月は冬季閉鎖となる。

埼玉県秩父市 大滝

少し下ると、軽はずみな気持ちでやってきた己を後悔するような絶望的な光景を次々目をする事になる。「路肩注意」の標識のポールも左90度にぽっきり折れ曲がっているし、法面は豪快に土砂崩れを起こして車道ギリギリの幅にまで迫る。群馬の藤原とうふ店よろしくドリフトを決め込んでもここでは死を招くのみ。時速15キロを超えるとカーブを曲がる度に砂利や岩にタイヤを取られて「頭文字D」を意図せず車が横滑りする。危険キケン。

埼玉県秩父市 大滝

余裕で車が潰れて即死できそうな巨大な岩もゴロゴロ転がっているので、無事に通れるかどうかは天に祈るしかない。よく「落石注意」の標識があるが、こんな岩が降ってきたら避けようもないですよね。実際、この旧中津川林道は土砂崩れによる通行止めも頻繁に起きていて、通行可能かどうかはこれまた運次第。

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途中で遭遇する頭上高くにそびえる巨大な岩の壁、その真下を通り抜けなければならない場面もある。岩盤は見るからに脆く亀裂な細かく走っているのが見える。さすがにこれは生命の危険すら感じるレベルだ。こういう道だと分かっていて来る我々のような変態やオフロードバイク愛好家でなければ、とてもお勧めできるような道ではないのは確かだ。

埼玉県秩父市 大滝

崖側に置かれたガードレールも積雪の重みでひしゃげて半分くらい役割を果たしていない。かれこれ下り5キロくらいまではこのような無茶苦茶な状態の峠道が続く事になる。

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