優良住宅地・世田谷の裏の顔が見えそうな街、小田急線「千歳船橋」を歩く

世田谷区

先日発売してから全国の書店・Amazon等で飛ぶように売れている、当サイト書籍版「東京DEEP案内」が選ぶ 首都圏住みたくない街」にもこの件は触れたかと思うが、世田谷区という地域は「優良住宅地」というブランドイメージばかりが先行して買い被られ過ぎている印象がある。世田谷区自体も広い訳だしピンからキリまである、あまり宜しくない地域もあるのでは、という疑義を呈しているのだが、特に烏山ハウジングやオウムの道場がある京王線の千歳烏山なんかは分かりやすい地雷タウンだと思う。

しかし、世田谷区で最も人気の高い私鉄路線である小田急線沿線にも、「実はここは地雷タウンなのでは?」と思わずにはいられない場所に遭遇した。その場所とはズバリ「千歳船橋」である。残念ながら拙書ではツッコミを入れなかったばかりか巻末の「首都圏鉄道駅別ざっくりネタ帳」にもうっかり入れ忘れる程、この街に触れるのを忘れていたのは迂闊であったが、今回はきっちり歩き回る事にする。

「世田谷はお上品」と固定観念を持って来ると面食らう街、それが千歳船橋

まずは小田急線の千歳船橋駅で降りる事にする。新宿から各停電車で片道19分とそこそこ都心からも遠からず…といった地理関係にあるが、まだ環八通りの内側という事を考えると郊外とも言えない街である。だいたい駅の北側が世田谷区船橋、南側が世田谷区桜丘と住所が分かれている。

千歳船橋駅前も両隣の経堂や祖師ヶ谷大蔵同様、駅の南北に商店街が広がっていてそこそこの賑わいを見せている。だが目につくのはパチンコ屋や「すき家」などのチープでお安い外食チェーン店の看板だったりして、世田谷らしい垢抜けた感じがあまりない印象。とりわけ、のっけから駅前一等地の一番良い立地に狙ったようにパチンコ屋が3軒もあるのには閉口する。

駅前の商店街を見ると世田谷区スタンダード的なせせこましい路地に各種チェーン店と個人商店が入り混じっている状態だ。両隣の経堂、祖師ヶ谷大蔵も駅前商店街がごちゃごちゃしているが、隣の経堂の方がまだシャレオツ要素が高く意識の高そうなパクチー料理店やオーガニッククレープ屋があったりするのと比べると、こっちは下町臭いグダグダ感が否めないわな。

京王線の千歳烏山が「ちとから」と略されているのと同様、千歳船橋は「ちとふな」と略されるようで、千歳船橋駅前の商店街も「ちとふな商店街」と自称している。そんな商店街の事務所の軒先を見ると、どうやら昭和の俳優・森繁久彌(故人)ゆかりの地らしく「森繁通り」という愛称がアピールされている。

商店街特製らしい森繁通りオリジナルストラップには森繁久彌をデフォルメしたマスコットキャラがぶら下がっている。もはや誰得状態でどこに需要があるのか想像もつかん。森繁久彌の没後、千歳船橋駅前から旧森繁邸前まで連なる区道を「森繁通り」と世田谷区自身が命名したのだそうで、茅ヶ崎の加山雄三通りみたいなノリでしょうかね。

世田谷だの目黒だの聞くとそんな芸能人や政治家やら各種大物のお住まいが点在する優良住宅地のイメージが抜けないわけで、森繁久彌も住んでいた千歳船橋、と聞くとたいそう良さげな印象を持ちそうになるが、相変わらず安っぽいディスカウントストアなんぞが目立っていて終始庶民的である。

千歳船橋駅西側の環八通りに向かう道すがらにある「バザール桜丘」も安売り状態が半端ない件。水菜20円、小松菜38円、サンチュ20円と野菜があり得ない捨て値で売られている。世田谷暮らしを気取れる割にはお安く買い物できる一石二鳥的タウン、それが「ちとふな」なのだ。

地元民に愛されている感漂うボロくて安くて美味そうなラーメン屋もちょいちょいある街、千歳船橋。どこか貧乏臭さが抜けないのは何故かと思い、駅周辺の地図を眺めていると確かに都営住宅が多かったり、駅北側の船橋六・七丁目には「希望ヶ丘団地」という大規模なURの公団住宅もある。世田谷区の中では比較的所得の低い人間が多く住む街ではなかろうか、という疑問が湧いてくる。

三色旗ショップと公明党ポスターも多い街、千歳船橋

世田谷区に漠然と良いイメージを持って何も分からずに引っ越してしまう人種が多い中、決して世田谷を買いかぶりすぎてはならない、世田谷の現実と裏の顔を知れ、と常々思わずにはいられない当方にとってはだんだんツッコミどころが見えてきたかも知れない街、千歳船橋。駅前の商店街を歩いていると、俄然ある事が気になってきた。

それがやたらめったらと公明党のポスターが商店街の各所に貼り付けられている点である。京王線の仙川あたりもかなり学会員多めだった印象があるが、千歳船橋だって負けてはいない。随分と学会パワーが炸裂しているようだ。

どこを見回しても公明党の竹谷とし子議員のポスターだらけである。創価大学卒業、2010年に参議院選挙に出馬し当選2回。公明党議員の花形的存在か。

そして極めつけには創価学会のトレードマークである三色旗ラインが堂々と看板に描かれた土着感溢れる鯛焼・甘味処「鹿の子」の店舗。ここにも竹谷とし子ポスターが貼り付けられ街を上げて公明党を応援している。周辺の創価学会施設を見ると、京王線芦花公園駅寄りの粕谷三丁目に世田谷平和会館があり、田園都市線桜新町駅近くにある東京池田記念講堂にも直線距離的には近い。さぞかし世田谷の中では三色旗パワー溢れる一帯であろう。

千歳船橋環八通りの迷建築・隈研吾デザイン「M2ビル」は葬儀屋な件

あと千歳船橋にはちょっとした迷建築が存在している。駅前にも広告を張り出しているこちらの葬儀屋「東京メモリードホール」の建物がそうだ。環八通り沿いにあるんですが、ちょっと見に行ってみましょうかね。

世田谷区砧二丁目の環八通り沿い、千歳船橋・祖師ヶ谷大蔵両駅の中間くらいの場所にいきなり現れる豪勢な珍建築。2020年開催予定の東京五輪の主会場としてすったもんだの挙句、クソ高いデザイン料を払った末にボツにしたザハ案に代わり新国立競技場のデザインを担当する事で再びその名が挙がった日本建築界の大御所的存在「隈研吾」が手掛けたビルである。

1991年というバブル時代末期にぶっ建てられたド派手なポストモダン建築は当初自動車メーカーのマツダが東京における拠点として隈研吾デザインのもと建てたものだったが、2002年に建物を売却、翌2003年から葬儀場として使われ今に至る、という異色の経歴を持っている。

「2番目のマツダ」だからM2ビル、という名称らしい。そんなマツダも今では建物とは無関係になってしまったものの「M2」の名称はそのまま。つまり珍建築の葬儀屋と公明党のポスターとパチンコ屋が多い街、それが千歳船橋なのですね。


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