池袋駅東口と洋菓子タカセビル

埼玉の植民地「池袋」の繁華街を目前とした池袋駅東口は昼夜問わず人並みの絶えない景色を見せている。その雑踏の何割かは西武東武埼京線あたりでやってくる埼玉県民であり、どこか垢抜けない感じが否めない。

そんな池袋駅東口の人の流れを見ているとおおよそがサンシャイン60通りに流れていく中高生の群れであったりDQNカップルや家族連れだったりするが、その多くは埼玉の田舎住宅地から流れてくる。その風景は東京らしい都会的な姿ではなく大宮、川越、所沢あたりの郊外都市の繁華街のそれに近い。



そして常に東口の西武百貨店前には変な奴が突っ立っているオチ。何故かメガホン片手に道行く人々に一人っ子政策を訴えかける謎の青年。

何を思う事があって主張しているのか意味不明だが少子高齢化社会のご時世にそれはねえだろと。何かの原因で兄弟にいじめられてるのかなぁ。どうでもいいが字が汚いぞ。

そんな駅前には仲間同士で大勢群がって道端でマクドナルドのハンバーガーを食ってるガキンチョ集団はいるわ、エネルギーのやり場もない鬱屈した思春期の少年たちの溜まり場となっている。実に池袋らしい風景である。

この街には彼らのかりそめの居場所となるカラオケボックスやゲームセンター、はたまたファーストフード店が密集している。駅前のふくろう交番は夜な夜なこの街に集まるやさぐれた少年少女を見守っているかのようだ。

休日ともなると右翼の街宣車が押しかけて西口の中華街にいる中国人あたりに嫌がらせしたり拡声器でギャーギャー喚きだす。そしてふらふらパルコの下を歩いていると飛び降り自殺の巻き添えを食らってお陀仏にもなるわ、池袋はつくづくカオスな街である。

そんな池袋駅東口の一等地に長年立ち続けているビルがある。洋菓子とパンの老舗「タカセ」のビルだ。昭和の風情全開のくたびれた雑居ビルは9階建て。町医者やコンタクトレンズ屋、テニス用品店、予備校、献血ルームなどが入居しているが、ビル自体は洋菓子タカセの所有だ。

大型チェーン店の進出で全国的に画一化されていく昨今の傾向に抗うかのごとく駅前一等地に君臨する池袋オリジナル「タカセ」のネオン看板。戦前戦中戦後に渡りまる一世紀近く池袋駅利用者に長年親しまれてきた風景だ。かの尾崎豊も子供の頃からここタカセのケーキをこよなく愛していたというのはファンの間では有名な話。

タカセビル1階はタカセ直営のパン屋となっている。ビルの外観と同じく昭和の風情そのまんまな古臭い店構えがそそる。中高年を中心にいつも客で賑わっている。

タカセのパンと言えば個別包装されたオリジナル製品の数々。「カジノ」「アポロ」「カステ」といったやはり古臭いネーミングと古臭いデザインの包装にくるまれた菓子パンをおばさん達が大量に買っていく光景が日常的に見られる。地味だけどれっきとした池袋土産である。他にはシュークリームやケーキも売られている。

しかもタカセはパン屋だけではない。ビルの2階には喫茶室、3階にはグリル、さらに9階に展望ラウンジまである。気になって3階に行ってみるとこれまた古臭い看板がお出迎え。とことん昭和のままである。
3階ではハンバーグやオムライスなど洋食が一通り食える。昔ガキの頃に親に連れてってもらった記憶のあるデパートの食堂を彷彿とさせる作りで、やはり客層や店員もみんな中年以上である。

しかしタカセらしさが出てると言えば9階のコーヒーラウンジだろう。料理サンプルが陳列された棚、無意味に吊るされた飾りのモールも情緒を漂わせる。

昭和なセンスの自動扉を潜って店内へ。中もおしなべて古臭くて素敵。そしてお約束通り客層の平均年齢も高い。

池袋駅東口が見渡せる一際見晴らしの良い店内で、タカセオリジナルのよもぎが練り込んであるフルーツサンドと、ひたひたのラム酒の臭いがプンコラ漂うサバランを食後のデザートにコーヒーをすする。うーん、贅沢なひと時ですねぇ。スイーツ(笑)
洋菓子タカセは大正9(1920)年の創業以来90年以上池袋の地で店を構える老舗中の老舗だが、店の屋号は創業者である森茂吉氏の故郷、香川県三豊市高瀬町の地名から取られている。苗字じゃなくてうどん県の地名だったとはこれまた意外。今なおチェーン展開もせず池袋一本で商売を続ける堅実な企業だ。

東京都 豊島区 (地域批評シリーズ日本の特別地域 4) (地域批評シリーズ日本の特別地域 4)
橋本 東堂
マイクロマガジン社
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