東京西部の多摩丘陵に稲城というマイナーな街がある。一般的にはよみうりランドのイメージが強いが、遊園地のアトラクションよりもドキドキできる洞窟探検があるという話を聞いたので京王線を乗り継いでこの田舎町を訪れた。
京王相模原線の京王よみうりランド駅を降りる。駅前には数軒の飲食店があるくらいでさっぱり栄えている感じもないが、南側の山にはよみうりランドに直通するゴンドラ乗り場があったりしてレジャースポット的な匂いが強い場所である。
よみうりランドへ続くゴンドラ乗り場は一向に無視して、我々は駅西側から山へと続く都道124号を歩き始めた。少し駅を離れるとのっけから農村全開な光景で笑える。柿と梨の農家が多いのだ。よもや新宿から片道20分ちょいでこんな風景があるとは…とまた驚く訳だが。
この都道は稲城側と川崎側を結ぶ峠道となっていてバスやダンプカーなど大型車の往来が思ったよりも頻繁にある。そのくせ歩道はないので歩行者は結構危険な感じだ。これでも一応東京都ですよ。
郊外の危ない道路、もし自転車にでも乗ってスッ転んだりしたら即あの世行きになるやも知れぬ。考えて下さい死後の行き先。まーたキリスト看板だ。
そんな微妙な峠道の途中に目指す洞窟探検スポット「弁天洞窟」とやらがある。厳密に言うと威光寺という寺の境内にある洞窟の事だ。
ちょっと古臭い看板で「新東京百景 弁天洞窟 威光寺」と書かれているのが目に入る。毎週火曜日は定休、夕方4時までしかやっていない。訪問の際は時間の確認が必要である。
この「新東京百景」というのは東京都が1982年10月1日、都民の日制定30周年を記念して選定されたもので、二重橋やら東京駅やらニコライ堂、さらには新宿御苑や浅草寺といった錚々たる顔ぶれに紛れて82番目に弁天洞窟がしっかりと登録されている。
まず弁天洞窟に向かうには威光寺の境内へ入る事になる。境内はとりわけ珍しいものはないので、早速受付に出向いて弁天洞窟の拝観料300円を支払いに行く訳だが、しばらく待って受付のおばちゃんがだるそうな顔で出てきた。普段は暇そうである。
受付のおばちゃんから拝観料と引き換えにもらったのは、棒切れの先っちょにちょこんと刺されたロウソクが乗っただけのか細い「明かり」。なんだか大船の田谷の洞窟みたいな展開だが、ここ弁天洞窟には一切洞窟内の照明が存在しない。ロウソクの明かりだけで探索する事となる。
境内奥の太鼓橋を渡った先が弁天洞窟の入口。決して大げさなアプローチではなく「こんなの余裕じゃん」と調子こいていると後でエライ目に遭う。
弁天洞窟の由来と内部マップが書かれた看板があるのでここで予習しよう。古代墳墓だった場所を明治時代に掘り広げて作られたという全長65メートル程の洞窟。その奥には二体の大蛇が蠢いている。まるでドラクエの洞窟みたいなノリだな。
レンガ積みとなった洞窟の入口、それは信仰のためのものというよりは防空壕のような印象を受ける。田谷の洞窟よりは小規模だが、中は本物の闇。心して掛かるべし。
講談社
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