ガチな下町「荒川区町屋」（1）町屋斎場

ガチな下町風景が濃密に残る荒川区の一帯。都心からの近さに反して存在のマイナーっぷりは際立っている。大手町駅からわずか15分足らず、千代田線町屋駅で降りると駅周辺の街並みはおおよそ東京らしい都会っぽさとは無縁の光景が広がっている。

千代田線の他、京成線や都電荒川線も走る町屋駅前。ちょっとした交通の要衝だが駅前にデーンと建つ雑居ビルには早速サラ金大手各社の看板が揃い踏みしていてのっけから貧乏臭さを見せつける。

駅前の商店街もそこかしら華がなく地味な印象だがそれでも一通りは揃っているので生活に不便を感じる事はない。だが下町らしく居酒屋やスナックばかりに店舗構成が偏っている気がしなくもない。

しかし隣に北千住があるし、京成線で上野にも出られる土地柄なのかして歓楽街的な要素には欠ける。風俗店らしいものは全く見かける事もないし、やっぱり地味な印象。

そんな駅前商店街を抜けて京成線の高架下あたりまでやってきた。相変わらずしょぼくれた街並みに古いスナックや飲食店の建物が連なる。

町屋と言えば有名なのが「町屋斎場」の存在である。住宅や工場が密集している中で一軒だけだだっ広い敷地を持っているのでやけに存在感がでかい。それもそのはず、敷地内に12基の火葬炉を備えた都内でも最大規模の斎場なのである。

町屋は単なる町工場だらけの下町という以上に「斎場の街」として知られているのはこの町屋斎場があるからだ。駅から徒歩5分くらいの街のど真ん中にドーンと建っているものだから、あながちオーバーな表現でもないだろう。

そんな斎場の真向かいには普通に古い銭湯があったりして庶民の暮らしの営みが繰り広げられているのだ。

さすがコリアタウン三河島を擁する荒川区だけあって韓国系教会なんぞもある。テコンドー道場も併設しているらしい。その上は普通にマンションだ。杉並とか世田谷あたりの小うるさい住民には信じられないらしいが斎場に住居が隣り合っていてもこの付近では当たり前の光景なのだ。

斎場に隣接して関連業者の店舗なども点在している。もし急に身内が死んだりしてもとりあえず町屋に行けば何とかなりそうな便利さだね。

法要一式は何でもお任せといった広告が店先に張り出されている。至れり尽くせりである。

そんな町屋斎場の周囲はがっつり町工場で固められている。化成工場の脇から路地に入って斎場の回りを一周してみる事にする。

古めかしい町工場の建物を脇目に路地の奥へ入っていくとその先も工場や長屋が連なる住宅街が広がっていた。不動産用語で言う所のいわゆる嫌悪物件のオンパレードだが、町屋は昔からそんな街だったので気にしない。

この先も区画整理が行き届かない住宅密集地が広がっていて町屋の迷宮っぷりを思い知らされる事請け合い。荒川区町屋も一丁目から八丁目まであるので殊の外だだっ広い。我々が見ている風景もほんの氷山の一角なのである。

斎場の裏側も概ね町工場が並んでいる。杉並や世田谷が標準だと思っているおめでたいスイーツな住民にはカルチャーショックだろう。同じ東京でも全く違う街並みだ。しかし町屋の奥深さはこんなものでは終わらない。まだまだ路地の奥へと足を踏み入れていこう。