駅前徒歩0分の場末「武蔵関」 (1)

東京には他の都市圏では考えられないくらいに街のブランド志向が強い。東急小田急じゃなきゃヤダとかそういう志向である。その結果街の人気は常に「西高東低」となっているのが東京の常だが、一方で「西側」に位置していながらまるで見向きもされていないのが西武新宿線沿線だ。

しかし東京における住みたい街ナンバーワンのブランドタウン「吉祥寺」からバスの便が良好である西武新宿線武蔵関駅周辺は若干事情が違うようだ。
この武蔵関駅から西武バスで吉祥寺駅北口まで15分程度で出れてしまい、直線距離で3キロ程度という事から、憧れの吉祥寺は家賃が高くて手が出ないよう、というようなちょっと貧乏で夢見がちな方々が「吉祥寺の代用品」として武蔵関を選ぶのだそうだ。



そんな武蔵関駅にやってきた。改札を降りた先から駅ビルの中であるが、しこたま古臭い雰囲気に圧倒される。手書きのポップが素敵なステーキ屋さんがいい味出してる。

「西武武蔵関ステーションビル」は隣のロータスロードビル(雑居ビル)と並んで武蔵関住民の貴重な買い物ゾーンであり溜まり場でもある。多分開業以来一度もリニューアルされていない模様。この古臭さは異常だがそれはここが西武新宿線沿線だという時点で許して欲しい。

今回ヤボ用で武蔵関を訪れたのだが、駅前で居座れる手頃な喫茶店はないものかと探したが全く見当たらず、結局ステーションビルの中にあるモスバーガーに落ち着いた。確かに店が少ないらしくモスバーガーの中は客だらけで馬鹿混み、まともに座れないレベル。吉祥寺のがよっぽど恵まれてますね。

駅ビルを出るとそこは武蔵関駅の北口。商店街となっている訳だがこのアーチも負けず劣らず古臭さが異常。

控えめに店が立ち並ぶだけの地味な商店街。東京にありがちなチェーン系喫茶店も皆無。吉祥寺暮らしを夢見て間違えて武蔵関に住んだ脳内お花畑民には面食らう事であろう。そもそも住所も武蔵野市ではなく練馬区である。

そのくせパチンコ屋だけはちゃっかり立派な店を構えていたりするところが西武線クオリティ。街全体に気だるい空気が充満するがそれはここが練馬区だという時点で許して欲しい。

駅前徒歩0分でこんな光景がある武蔵関のキャパシティを侮るなかれ。この辺のボロアパートだったら恐らく同じ広さで吉祥寺で借りるマンションの半額くらいだろう。実際に吉祥寺より武蔵関の方がワンルームの家賃相場は1万円~1.5万円程度安い。この違いはでかい。

北口で見かけるチェーン系はせいぜいオリジン弁当くらいしかない。夜が遅い勤め人は毎晩の飯がオリジン弁当になる事必至であろう。それでも吉祥寺が近いから週末はバスに乗って大好きな吉祥寺に出れば済むという事で納得出来るか。

武蔵関北口商店街を少し歩くと目の前を石神井川が流れている。石神井川に架かる橋の手前にはリサイクルショップが一軒。憧れの吉祥寺暮らしを目前に妥協して住んだ武蔵関で家具を買い揃えるならこういう店が丁度良い。
しかし店とは無関係な「朝鮮戦争阻止!」「沖縄新基地建設云々」「労働者こそがこの社会の主人公だ」などと香ばしい文言だらけの幟は一体何なんだろうかと。きっと中核的な何かなのだろうな。

さらに石神井川沿いに進むとそこには一軒のホテルがあった。駅前至近ながらただならぬ場末感を放つ武蔵関にあって、このホテルも街に違和感なく溶けこむくらい煤けた雰囲気を放つ。

ホテルの看板は付け替えられた跡がくっきり残っていた。下に残ってる文字の跡は「東」か?さっきから駅前風景を見ていても吉祥寺的なオシャレ要素が皆無過ぎて、ここまで違うものなのかと驚くばかり。

駅前商店街から線路沿いの路地に入っていくと、突き当たりには関の湯という古い銭湯が存在している。ここも総じてボロい。何もかもボロい。

関の湯の玄関両脇にコインランドリーを完備。洗濯機も風呂場もない貧乏アパート住まいでも駅前徒歩0分にこの銭湯があるなら問題なく生活出来る事請け合い。独居老人らしいオジサンが洗濯機が止まるのをじーっと待っていた。

路地の突き当たりには私営の自転車駐輪場があり、やる気のなさそうな管理人のオバサンが奥で座っていた。すぐ真ん前には武蔵関駅のホームが間近に見える。
それにこの辺は駅前ドサクサ飲食店街の名残りか知らんが呑み屋の廃墟に蔦が絡まって凄い事になってる。で、その廃墟の前も私営駐輪場のテリトリーになっているのだ。のっけからヤバイものを見せつけられた。武蔵関ハンパないっすね。

これでいいのか東京都練馬区 (地域批評シリーズ日本の特別地域 13)
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