横浜根岸界隈を行く (4) 根岸競馬場一等観覧席

横浜市中区簑沢、根岸森林公園のある高台西側の一角にそびえる日本最初の洋式競馬場の遺構、旧横浜競馬場(根岸競馬場)の一等観覧席。1930年に建設された建物は当時のままの姿を留めている。
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現在では公園の広場と一体化していて、綺麗に整備されたなだらかな芝生の丘の上にその建物は佇んでいる。緑が映える春夏の時期なんかに訪れると、まるでウインドウズの壁紙か、ヨーロッパ旅行をしているかのような気分だ。このファンタジー感は異常。


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横浜市街地から程近いにも関わらずアクセスの悪さから行きづらい場所だが、せっかく来たからには建物を右から左から舐めるように見回したい所だ。当時の最新技術を集めて作られた一等観覧席の建物、3つ並ぶ塔の内部はそれぞれエレベーターホールになっていたらしい。
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建物はしっかりと鉄のフェンスで囲まれている為、足元までは近づけない。それでもフェンスのギリギリまで近づいて見上げると、さすがに迫力がある。半世紀以上放置されたままの建物の外壁はすっかり蔦に覆われてしまい、中央のエレベーター塔から右半分は完全に緑化していた。
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このフェンスは最近取り付けられたものらしい。侵入者を感知するセンサーまで取り付いていて、完全に外部から侵入出来ないようにしている。というのも廃墟マニアの間では余りに有名過ぎる物件で、ネットで情報を知ったマニアが勝手に侵入しまくるようになったからだ。
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ネット上では一等観覧席の建物内部に潜入したレポート写真を掲載しているサイトが多数存在する。確かに興味を惹かれるが、不法侵入で捕まるし、裏が米軍施設なので色々と面倒な事になるだろう。前科者になりたくなければ、よい子は外側から見るだけにしようね。
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夏場は蔦で建物が隠れるので、再度冬場を狙って訪れるとこの通りだ。一等観覧席の建物を横から眺める。左から右に低くなっているのは当然観客席がひな壇になっているからだが、現在の観客席が向いているのは米軍施設。正面からは年に一度のフレンドシップデーの時期以外は決して見られない。
なお、以前はこの観客席の上に巨大な屋根が骨組みだけ残っていたが、だいぶ前に取り払われて存在しない。
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蔦のツルが大地から毛細血管のごとく伸び放題になっていて凄い。関東大震災後の建物完成から80年が経過していて、その間に成長を遂げたのだ。東日本大震災の強烈な揺れを体験したが、建物が壊れずに残っているのは、さすが当時の最高技術をもって作られただけの事はある。
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地面からツルを生やした蔦は完全に建物の扉を封鎖してしまっていた。中世の古城というかむしろホラー映画の世界である。そりゃYMOだってここでロケしたがるだろう。
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エレベーター塔となっている3つの塔、かまぼこ型の部分は以前ガラス窓が埋め込まれていたが、これも無残に板で塞がれていて味気ない姿を晒している。以前は窓ガラスが割れたまま放置されていたようだ。
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一方で塔の上部にある大きく丸いガラス窓は未だに残されている。窓の周囲に草花を思わせる美しいレリーフが施されているのが見える。
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広場から見るとこっちが正面かと錯覚するが、本来ならここは観覧席の裏手にあたる。板張りで塞がれた箇所は昔は立派にガラス窓が仕込まれていたのだろう。現役時代の写真や設計図が目の前の案内板に置かれているので、よーく見比べてみよう。
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今では人を寄せ付ける事もなく、鳩のねぐらとして使われるのが関の山である。以前は時折見学会もやっていたらしいし、これだけの歴史建築の価値を考えるとそれなりに建物を保存しようぜという運動もあったかも知れないが、結局今に至っても放置プレイのまま。
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横浜市が本格的に修復保存にあたるにしても費用がかさむ上に米軍施設も隣り合っていて色々と面倒なので、乗り気でないらしい。
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で、結局侵入防止のフェンスだけは立派にこしらえて、建物は朽ちるに任されているという現状は長い目で見るともったいない気がする。くだらない開国博をやる金があるくらいなら、もうちょっと何とか出来なかったのだろうかね。

これでいいのか、横浜市 (日本の特別地域特別編集)
小森雅人
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