埼玉県名発祥の地・さきたま古墳群 (3) ゼリーフライ

さきたま古墳公園の駐車場の前、県道沿いに一軒の土産物屋がある。

駐車場に向けて埼玉銘菓十万石饅頭の看板を掲げる「さかもと商店」。観光客もまばらなさきたま古墳群の中で代表的な店である。ここで行田市が誇るソウルフード「ゼリーフライ」が食える。



一見すると田舎の地味な土産物屋に見えるがよく見ると色々と変なのである。単なる土産物屋ではない。「はにわ処」と看板を掲げているだけあって、主力商品は十万石饅頭でもゼリーフライでもなく「埴輪」。

店の軒先からして既に埴輪だらけなのである。そして何だかよく分からない骨董品も一緒くたに並べられている。

さらに店内に入ると大中小を問わず埴輪のオンパレード。昔の教育テレビで見た「おーいはに丸」どころではないテンションで来客を出迎える。その数々は埴輪職人手製のレプリカである。

箱詰めされた埴輪群には「テレビで紹介された」という理由で丁重に保管されたVIP待遇の埴輪も存在している。テレビに出た埴輪だけ、その旨が記されている。よっぽど嬉しかったんだろうか。

あまつさえ埴輪だけかと思ったら土偶まである。遺跡の発掘物繋がりということだろうか。しかしこっちもかなり種類が豊富。土偶と埴輪、どっちをお持ち帰りしようか悩む事だろう。埴輪はポーズがセクシーで、土偶はスタイルがセクシーなのである。

ますますこの店が謎なのが「本物の古銭」が出てくる自動販売機がある事だ。紙幣は200円、硬貨が100円。昔の十円札だったり他の国の紙幣や硬貨も混ざっているが、果たして販売価格以上の価値がある古銭は存在するのだろうか。

それにしてもさっきから「テレビで紹介された」旨の張り紙があちらこちらに貼られまくっていて笑える。紹介された番組がナニコレ珍百景やトリビアの泉という辺りがうまくB級スポット的なツボを捉えている。

そんなちょっとしたパラダイス状態なさかもと商店だが、そろそろ小腹も減ったのでゼリーフライをおやつに買う事にしよう。

このゼリーフライという食い物、最近は埼玉県がB級グルメで町おこしに躍起になっているため知名度が上昇傾向にあるが、この行田市周辺でしか知られていない「おからとじゃがいもの素揚げ」と形容できる、庶民の大衆食。形が小判で「銭フライ」というのが訛って「ゼリーフライ」になりましたという話。決してゼリーを揚げたものではない。
さかもと商店のゼリーフライは1個80円。

見た目そのまんまにおから素揚げコロッケな訳だが、口に入れるとソースとじゃがいもの香りが漂い懐かしい味がする。
他にも行田市ではお好み焼きに似た「フライ」という食い物も存在している。さかもと商店のおじさんにゼリーフライを注文しようと「フライありますか?」と聞いても、フライはやってないと答えられてしまう。
昭和初期に行田にあった足袋工場で働く女工の間で大ヒットした食い物というのがフライ。ゼリーフライとは全く違った経緯で生まれた別の食い物なのだ。
ただのベッドタウン県としか認識されず存在感に乏しい埼玉県だが、いざ蓋を開けてみると各地に独特の食文化が存在しているのだ。なかなか奥が深い。

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