西武鉄道で秩父を訪れてから中心市街地へ向かおうとすると通りがかるのが、秩父総鎮守・秩父神社に至る番場商店街である。過疎化の激しい秩父の街でも唯一繁華街らしい趣きが感じられる街のメインストリート。
秩父鉄道御花畑駅近くから秩父神社の門前まで真っ直ぐ続く道沿いに古い商店が連なっている。あまり観光臭のしない地方の寂れた商店街といった趣きが強い。パチンコ屋が一軒、スーパーが一軒ある以外は地元民が経営する個人商店ばかりだ。
12月2日、3日に行われる「秩父夜祭」の時には屋台が立ち並んで観光客が殺到するような場所だが、普段の時期に訪れると寂れた雰囲気は否めない。道行く人は老人ばかりというのもこの地方の現状を物語っている。
古い街らしく商店街の脇に目をやるとなかなかそそられ気味な路地裏も残っている。どこにでもパチンコ屋と風俗とサラ金とイオンのショッピングモールが乱立する味気ない郊外都市の風景に何度も辟易させられてきたが、少し救われた気になる秩父の街並み。
だけどどうしようもなく寂れてしまっている。
御花畑駅から秩父神社に向けて商店街を歩いて行くと左手には年季の入った立派な木造建築が現れる。門柱には片山醫院の文字。明治末期に建てられたものがそのままの形で綺麗に残されている。
番場商店街は秩父神社の門前通り。織物産業で栄えた昔の名残りを留める古い個人商店やレトロ建築がまだまだ随所に見かけられる。
街の新陳代謝が激しい都心とは違って過疎化が激しい土地の事情がかえって古い街並みを残すきっかけになっている。皮肉な話だが。
秩父土産の一つ味噌漬けを売る老舗肉店「安田屋」の建物。決して派手さはないが窓上の装飾にレトロ建築独特の特徴が見られる。
さらに斜向かいには2階建ての見事な外装を持った店舗がある。ここまで来ると建築物というよりも芸術品レベルだ。昭和初期の建築で、登録有形文化財に指定されている。
1階と2階でデザインが全く違っているが違和感を感じさせる事はない。レトロ建築目白押しの秩父の街でもこの建物の重厚さは頭ひとつ抜きん出ている。しかし放置プレイ気味でちょっともったいない気もする。
建物の傍らには「小池煙草店」と右から左に書かれていた。こう見えてタバコ屋だったのだ。見たところ有人店舗は廃業してしまったようだが自販機だけがひっそり置かれている。
豪勢な小池煙草店の建物裏を見るとトタン屋根がちらりと見える。典型的な看板建築の類だ。隣は「男と女のヘアーサロン」。
向かいの白い外壁の2階建ても同様に「登録有形文化財」のプレートが掲げられたレトロ建築。
旧大月旅館別館、現在は1階がバーになっている。
もう一軒、片山醫院と似た造りの木造二階建ての建物が残っていた。ここも元医院だったのだろうか。番場商店街には他にも戦前建築が当たり前のように見られるので、レトロ建築好きにはヨダレが出まくる事請け合いの街歩きスポットである。
番場商店街を外れて枝分かれする路地の先にもまだまだ商店街が残っているが、総じてシャッターが閉まったまま。
しかしどこの街にもありがちな風俗店やスナック街のようなピンキーな店がなかなか見当たらない。ある意味不思議な土地だ。この辺の住人はどこで羽目を外しているのだろう。やっぱり池袋まで出なきゃならんのだろうか。
埼玉県民の日フリー乗車券で埼玉のチベット「秩父」に行ってきた(2010年)