当方からすれば未だに訪問した事のない謎の住宅地や団地が広がっている横浜市南部エリア、そんな中で今回は金沢区にある“やたらとドデカい”と評判の高い、とある団地を訪れた。「金沢シーサイドタウン」というそうだが、まず東京からここに来るまでが大変である。

辿り着いたのは横浜市の第三セクターが運営する新交通システム「金沢シーサイドライン」の並木中央駅。金沢区内の埋立地に沿って走る、このローカル臭溢れる路線を利用すること自体、よそ者にとっては滅多にない機会である。せいぜい八景島や横浜市大附属病院に行くのに乗るくらいかね?

シーサイドラインと言えば、去る6月1日に原因不明の逆走事故を起こして怪我人が出る騒ぎを起こしたばっかり。平成の始まり、1989年に開業しているので、足掛け30年の路線になる。そもそも他路線との乗換駅が両端にある新杉田駅か金沢八景駅しかない不便な路線で、横浜駅に行くのも乗り換えが必須。東京都心までは片道1時間超えは余裕である。そして運賃も割高だ。
不便なシーサイドラインでお越しください「金沢シーサイドタウン」の団地へ

並木中央駅を降りると、目の前の路上にはびっしりと停められた自転車が連なっているのが見られる。当駅と両隣の並木北駅、幸浦駅から東側一帯には、かつて海苔・ワカメの養殖や漁業が盛んに行われていた海を埋め立てて作った工業団地が、西側一帯には「金沢シーサイドタウン」と称する大規模なニュータウンが作られた。

首都圏の他の場所に当てはめれば新浦安や舞浜みたいな感じの場所なんだろうが、当方からすると、不便な新交通システムを使わなければ来られない点などから見ても大阪の「南港ポートタウン」に雰囲気がすこぶる似ている。一応、京急本線の京急富岡駅からも歩いて来られるが、各停しか止まらないのでそれほど利用価値は高くない。

ニュータウン内の公園には、かつてこの場所が漁場だった事を物語るかのようなネーミングが付いている。イガイ根、イド藻、カゼ場、サルダの鼻…なんじゃそれって感じですが、特に「のりべか公園」なんて、これは海苔取り漁師の乗る“べか舟”の事だろう。こういうところは古い浦安の漁師町の面影と重なるところが見られる。

金沢シーサイドタウンは昭和53(1978)年に街開きして以降、公団住宅(UR賃貸住宅)に加え、横浜市の住宅供給公社や勤労者住宅協会、市営住宅といった様々な区分の集合住宅に続々に住民が入居し、人口約22,000を数える一大ニュータウンになっている。

いかにも“ザ・団地”的な高層住宅が建ち並んでいるエリアもあれば、見ての通りのメゾネット型の分譲物件までよりどりみどりなのが特徴的だ。「並木二丁目団地」の一角にある物件が中古で出ていたが、昭和57(1982)年築の115.68㎡の広々とした3LDKが3300万円といった相場である。お手頃価格だが、職場も横浜、骨を埋めるのもヨコハマといった人間でなければ、選択肢としては難しい。
団地の中央に元漁港の“富岡並木ふなだまり公園”

住所で言うところの「金沢区並木」に属する団地のほぼ中央部分に、一見すると広い池のように見える空間がある。元々この場所が「富岡漁港」だったというのだ。現在は「富岡並木ふなだまり公園」といい、漁港が無くなった現在も、この北側に隣接する富岡八幡宮で毎年執り行われる「祇園舟神事」において、沢山の舟が船溜まりに浮かべられ、この地域の風物詩となっている。

で、この“ふなだまり公園”の向かいにそびえる四棟の高層住宅の映る風景、一部の人間には「アジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)のPV」で有名な場所だという事らしい。こちとら全然知りませんでしたが、2003年に撮影されたPVがアジカンの公式アカウントでyoutubeに上がっているのを見れば当時と今との違いが色々と分かって面白い。PVに映っている桟橋も白鳥のボートも今では存在しない。

アジカンで育った世代には“聖地”とも言えそうなこちらの団地、「さざなみ団地第一住宅」というそうです。ここも昭和61(1986)年築と結構古い。中古分譲物件は4LDKで2600万円台。しかし若いファミリー世帯よりも圧倒的に高齢者の方が多い気がする。
団地住民のお買い物拠点「シーサイドショッピングセンター」も見てみよう

そんなふなだまり公園の北東側に団地住民御用達の「シーサイドショッピングセンター」なる商店街が広がっているのだが、例に漏れずシャッターが降りたままのテナントが目立つ、いつもの「寂れた団地の商店街」っぷり。

…そんでもって“寂れた商店街あるある”な、寂れた街の暇なお年寄りを集めて高額商品を買わせる催眠商法的ショップもあるというのが「お約束」。あれこれ言われる中で昔っからこの手の怪しい健康食品店は多いですが、高齢化社会が続く限りは安泰でしょうなあ。
その他、揚げ物系惣菜をズラリと並べて営業している肉屋さんとか、賞味期限切れが近いB級品と思しき食料品をダンボール直積みで売りまくっているインディーズ系ディスカウントストアとか、団地住民の生活水準を物語るような店舗も揃っているわ…
何やら放射能とか食中毒菌とかよそのテナントの排気だとか、あらゆるものを警戒しまくる放射脳で電波ゆんゆんなお茶屋が「照明を控えて営業中」になっていたりとか、地味に香ばしい物件もあるのが特徴的なショッピングセンターなのである。

このショッピングセンターの廃れ具合も、関西で言う南港ポートタウンとか芦屋浜団地の雰囲気と、どうにもかぶるんだわね。こういう場所を「都会の限界集落」と呼んでいるのですが、そういう認識で誤りはないでしょうか。ちなみに金沢シーサイドタウン自体、既に高齢化率は34.3%(2017年時点)といった感じです。

しかしこう見えても、このショッピングセンター自体が人口2万を超える大型ニュータウンの生活を支えるための場所でもあるので、割と買い物客の姿は多く見られる。車を使わずチャリンコで来られる範囲ならここしか選択肢がないという住民も少なくはなかろう。

どう贔屓目に見ても“団地のしょぼくれたショッピングセンター”でしかないこの場所だが、一方では希望の光が見えている。首都圏におけるディスカウントスーパーの雄・オーケーストアが堂々進出していたのである。この場所だけは買い物客が殺到しまくり。本社も雑色のジャンボサガンビルから横浜みなとみらいに移転、今では立派なヨコハマ企業である。横浜市民はせいぜいご贔屓に。

あと金沢シーサイドタウンにはもう少し幸浦寄りのところに「ビアレ横浜」という、若干古臭さ漂うモールが鎮座している。イオンに加えてユニクロ、ダイソー、西松屋、飲食店はすき家だとか、色々とチープなチェーン店が揃っているが、下品なパチンコ屋が入居しているのが土地柄か。さぞかし団地暮らしの年金族のなけなしの金がドブドブと流れていそうですが…

そんなビアレ横浜の前を行き来する団地住民の姿…みんな高齢者ばかりである。上京カッペ民が泣いて喜ぶ“お洒落な港町ヨコハマ”もこんな場所までやってきたら殆ど横須賀みたいなもんだし、かつてのトレンディスポットだった八景島もちょっと古臭くなってきたし、東京都心にも遠く通勤にも苦しい場所…この先、ひたすら寂れるしかないのかね。