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これが足立区の首都!「北千住」を歩く (2009年)

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ラーメン菊や

古くは日光街道の宿場町、今では都心近郊のベッドタウンで交通の要衝、北千住駅に程近い、荒川土手が目前に迫る千住大川町の一角、何の変哲もない住宅地にぽつんと立つ、一軒のラーメン屋がある。

その名も「ラーメン菊や」。

ここ千住大川町に店を構えてかれこれ40年近いという地味ながらも老舗な佇まいの店は、カウンター6席しかないという小ささに加えて、昔ながらの木造平屋建ての民家の一角に作られた外観がなんともシブイ。

しかもこの「菊や」は東京ラーメン界でもかなりキワモノ的な存在として扱われている店の一つだ。確かにこの外観は怪しすぎる。店の玄関のガラス戸には「コーヒミルク」「納豆」「ジョロコン」「アルカリ」など一見するとラーメン屋なのに意味不明なキーワードが並ぶ。

勇気を出して中に入ると本当に店の中が狭い。個人宅の軒先でやっているくらいのこじんまりとした店なのだ。昔ながらの、気取らない東京の下町風情が全開です。

まず「菊や」の店内に入って異様に感じるのがずらりと隙間なく貼られたメニューの数々だ。普通のラーメンやらギョーザ、ワンタン、チャンポンなどのメニューの下には…

「紫色ラーメン」「水色ラーメン」「赤色ラーメン」

「黄色ラーメン」「青色ラーメン」「健茶ラーメン」

「納豆ラーメン」「豆乳ラーメン」「ココアラーメン」

「珈琲牛乳ラーメン」「牛乳ラーメン」

「薯ろ昆ラーメン」「アルカリラーメン」

一見するとどう考えてもキワモノでおふざけとしか思えないメニューの数々は、ただデタラメに思いついて書かれているものではない。「菊や」の店主が実際に試作して「これはうまい!」と思ったものばかりだというのだ。

ちなみに「アルカリラーメン」を注文しようとするとアルカリ乾電池を冷蔵庫の奥から引っ張り出してくるので、そこはすかさずツッコミを入れておこう。マジレスするなら、アルカリ成分の食い物である梅干しが入ったラーメン、と言う事らしい。

それにしても一番理解不能なのが「アイスクリームらーめん」だと思うんですが、これは本当にラーメンの上にアイスクリームを乗っけるというビジュアル的にもキツイ一品。

なんでも「地元の小学生の子がラーメンにアイスクリーム入れてよ!と言うから作ったんだよ」だなんて江戸っ子べらんめえ口調でサクっと話してくれる店主のおやっさんのノリの軽快さが素晴らしい。

とはいえ寒い冬にアイスクリームらーめんはないだろ、ということで珈琲牛乳ラーメンと青色ラーメンを注文する。

まず始めに出てきた珈琲牛乳ラーメンは、ビジュアル的には全く普通のラーメンである。

太めのチャーシュー、半分に割った半熟卵、海苔と葱とわかめなどがトッピングされた、オーソドックスで無駄がないラーメンだ。

ここでも「そこの荒川から拾った泥と水を使ってるんだよ、ドザエモンの出汁が取れて旨いぞ。俺は食わねえけどな」などと冗談をかます容赦ない店主。

「珈琲牛乳」と聞いたらコンビニとかでもよく見かける紙パックのゲロ甘珈琲牛乳を思い浮かべるだろうが、菊やの珈琲牛乳ラーメンは決してそんな奇を衒ったゲテモノではない。

紙パックの珈琲牛乳を使っている訳でもなく、牛乳の旨みと珈琲の香りとほろ苦さを上手にラーメンに絡ませている。いや本当にうまい。というか、こんなにうまいラーメンは東京に来て初めてだ。言うまでもなくスープまで飲み干してしまった。

次にやってくる青色ラーメンの製造工程を見せてもらう事になった。菊やの店主のおやっさんは他に客が居なくなるととことんフレンドリーである。紫キャベツから色素を取っているんだよ、とさりげなくアピールしている。

ここでも「秘密の毒を三種類混ぜてるんだよ。飲んだら次の日にはぽっくり逝っちまうかもな」とチクリと冗談をかます店主。

紫キャベツと言えば理科の実験で使った事のある人ならおわかりだろう。色の正体はアントシアニン。グツグツ煮るとこういう青色の汁が取れる。そして酸性かアルカリ性で色が多様に変化する。

試しに酢をかけてみると鮮やかなピンク色に変化するのだ。これは楽しい!と思って調子に乗って遊んだ客がスープを酢だらけにして酸っぱくし過ぎて食えなくする事が多いらしい。

これにアルカリラーメンの梅干しを入れると、また違う色に変わるはずだ。今度は是非挑戦したい。

完成した青色ラーメンは見事な透き通るほどの青でした。そこにはたっぷりと紫キャベツも乗るのだ。通常、青色の食べ物は自然界にはあり得ないという通説があるわけだが、菊やの前でそんな能書きは通用しない。

しかもこの青色ラーメンが、あっさりした塩ラーメンで旨いのだ。見た目のエグさとは裏腹にいい意味で裏切られる。

ここは決してネタやゲテモノ見たさだけで来る店ではない。「菊や」の店主のおやっさんは本気で旨いラーメンを北千住の片隅でひっそり作り続けている。貴重な東京ラーメン遺産の一つだ。

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足立区の首都「北千住」を歩く(2009年)



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東京DEEP案内の管理人です。2008年の開設以来、首都圏一都三県の街歩き情報を淡々と記録し続けております。いわゆる日陰者的物件、観光地にもならない場所、ちょっとアレな地域を見物・考察する事を趣味としております。2017年6月15日、単行本「『東京DEEP案内』が選ぶ 首都圏住みたくない街」(駒草出版)を発売。
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