【砂利運搬線】川越市・西武新宿線南大塚駅から伸びる「西武安比奈線」の休止線跡を歩く【連ドラロケ地】

川越市

新宿・歌舞伎町(西武新宿)から所沢・本川越の間を結ぶ「西武新宿線」でずんずん川越方面に進んでいくと、終着駅である本川越駅の一つ手前に「南大塚駅」というのがある。この駅からかつて「西武安比奈線」という聞き慣れない路線が枝分かれして伸びていたらしい。一体どんなものか以前から気になっていたので現地まで見に行く事にした。

川越市 南大塚

西武新宿線で高田馬場から片道50分超、関越道川越インターチェンジにも程近い場所にある南大塚駅の北口に降り立つと、駅前には人っ子一人居ないという状況。同じ川越市でも繁華街に近い東武東上線川越駅付近とは勝手が違うようだ。そもそも西武新宿線経由だと都心に行くのも遠回りだし、自家用車があった方が便利な土地柄なのだろう。

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駅前ロータリー沿いにそびえる五階建ての店舗兼マンション「大晃ビル」がさしずめ南大塚駅北口のランドマークか。一階に不動産屋とカラオケが入居しているくらいでそれ以外が殆ど空き店舗である。三階から上の住居フロアも外から見る限り空き部屋だらけで家主には気の毒なほどの状況。まるで北関東の街のようだ。

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荒涼とした郊外の田舎町に渋い佇まいの串揚げ居酒屋あり。正月休みもとっくに終わった頃に来たんですが、まだ正月休み中でした。ここいらの店はどこもかしこもマイペースなんでしょうな。

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周辺の店舗も昔から営業している土着の個人商店ばかりで、鄙びた雰囲気が半端ない訳ですが、まだ線路でぶった切られた向こうの南口の方がマンションやスーパーもそれなりにあるのでマシかも知れん。寂れた北口に用事があったのは「西武安比奈線」の廃線跡が見たいからだ。

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でも厳密には安比奈線は休止路線であり「廃線」じゃないんですけども、アスペ気質丸出しの鉄ちゃんに「安比奈線は廃線ではない、休止線だ」とツッコミを入れて来られようが面倒なので本記事では「廃線」という括りにしておく。あと地元では安比奈の地名は「あいな」と読むのが正しいらしいが、西武安比奈線の読みは「あひなせん」。

西武安比奈線とは何なのか

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今回の廃線跡探訪にあたって、まず「西武安比奈線」とはそもそも何なのかを知る必要がある。南大塚駅から分岐する全長3.2キロに及ぶ西武鉄道の貨物線で、大正14(1925)年に入間川で採取される砂利の運搬を目的に作られたもの。「砂利運搬」と聞くと不法占拠河川敷バラックで有名だった川崎の戸手にあった貨物線や西武多摩川線に通ずる、少し香ばしい匂いを感じてしまうのである。

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しかし1960年代に砂利採取の規制が強化されるにつれて、こうした砂利運搬線は次々と廃止の対象となり、例に漏れず西武安比奈線も昭和38(1963)年を最後に長期間「休止」という形で貨物列車の運行が行われていなかった。それから50年余り、線路跡は所々ぶった切られたまま放置されていたが、2016年2月になり路線廃止が決定された。

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53年もの時の流れを経て貨物線は正式に廃止が決まり、2016年11月に廃止予定となっているのだが、53年前というのは、そこで目の前をとぼとぼ手押し車を押して歩いている腰の曲がった婆さんがまだキャピキャピギャル(死語)だった頃なのかと想像すると途方も無く過去の話に思える。

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そんな半世紀もの間、無用の長物と化していた全長3.2キロの廃線跡とはどのようなものだろうか、気になって見に来たんですが、未だにしっかりと線路用地が確保されていて、架線柱も残され、所々「線路内立入禁止」の警告看板も建っている。

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安比奈線は南大塚駅を出た後、北西方向に大きく線路がカーブして、そのまま入間川方向に伸びている。終点に廃止された安比奈駅の跡があるという訳だ。しかし生活動線を線路が見事にぶった切ったままで不便に思わなかったのだろうか…って、別に何とも思わないんだろうな。この辺に住んでいるのならどこに行くにも自家用車なのだろうし。

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しかしその線路も途中で国道16号によって寸断されていてご覧の通りの状況。こりゃどう見ても列車の往来は不可能である。踏切すら存在していない。

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貨物線の線路もこの通り、国道16号のアスファルト舗装の下に埋もれてしまっている始末。車で何気なく通り掛かるだけだとここに廃線跡があるとはなかなか気づかんだろうな。

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関越道川越インターチェンジの近くで交通量も半端無く多いので、列車どころか歩行者の横断も無理。少し離れた横断歩道まで迂回する羽目になる。古臭いホテルの看板、由緒正しき埼玉ロードサイドのよくある風景。

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人っ気のまるでない郊外の道端の電柱に突如目にする出所不明の糞怪しい裏DVD販売業者の広告もまた埼玉ロードサイドあるある的な風景。ネット全盛の世の中に未だにこんな広告を見て実際に切手同封して送っちゃう頭の弱いオッサンとかが多分に居るんでしょうか。

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国道16号の北側を並行する入間川街道沿い、川越名物の焼団子屋の隣で再び安比奈線の廃線跡を確認。ここから北側は終点の安比奈駅までとても東京通勤圏とは思えない長閑な田園地帯が広がるど田舎ゾーンです。

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この辺まで来ると厳密には違法と思われる無断耕作地が線路上に見かけられる。線路上にまで植木鉢やら何やら私物で占拠されている始末。すっかり地元のご老人の憩いの場である。

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安比奈線は一体何のために半世紀以上も放置プレイをかまされ続けていたのか…以前に西武新宿線の複々線化計画に伴って安比奈駅に車両基地を増設する計画を挙げていたらしいが、少子高齢化の影響で沿線人口の増加が見込めず、また安比奈線を復活させてJR川越線的場駅まで延伸させる構想もあったが、結局いずれも計画が実行される事は無かった。

連ドラ「つばさ」ロケ地の線路跡遊歩道も見事に荒廃

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さらに入間川の河川敷に近い八瀬大橋のあたりまでやってくると、安比奈線の線路跡を一部遊歩道に整備されていた痕跡が残っている。そう言えばNHKの朝の連ドラ「つばさ」のロケ地だったらしく、連ドラ放送後に整備されて一定期間開放されていたらしいんですが、現在は見ての通りの荒廃ぶり。

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無論、この状況から察する通り、立入禁止の立て札が虚しくそびえ立っているのである。田舎に行くほどNHKの連ドラや大河ドラマの誘致に必死なんですが、観光地でもなんでもない町外れだとこうなりますわな。ちなみに連ドラ「つばさ」は2009年上期の放送でした。

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結局終点の安比奈駅はなんにも残っていない荒れ地だというので見に行く事は無かったんですが、西武鉄道はこの度の安比奈線廃止決定により固定資産の減損損失126億4000万円を2015年度の特別損失として計上している。安比奈線を半世紀以上放置したツケがそれか…


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