板橋区大谷口上町・日大病院裏手にあった谷底バラック村

板橋区

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板橋区大谷口上町では00年代半ばから住宅地区改良事業が始まり、我々が訪れた2010年初めの時点で谷底の不良住宅群は次々と立ち退きが進み、代わりに新しく車道が敷かれていた。

かつての日本には大谷口上町の谷戸のように不良バラックが立ち並ぶ光景は当たり前に存在していた。それが次々と新しい改良住宅に生まれ変わったのには、住宅地区改良法という法律の存在がある。対象地区となった不良住宅は国費で買い取られ、生活や防災に適したインフラを整備した上で改良住宅を建設し、そこに対象住民が引っ越すという形だ。

現在、東京23区内で住宅地区改良事業が行われているのは、ここ板橋区大谷口上町の1ヶ所しかない。

谷底のスラム跡は消え、代わりに出来上がったのが改良住宅の一つ「区営かみちょう住宅」である。既に地区には2棟建設が終わっており住民が引越しているが、高齢者の姿が非常に目立っていた。

谷底の風景は一変したものの、そこから坂道を登って谷戸の上に登ると景色がまた変わってくる。

上に登ると、谷底の道路と並行して細い道が続いている。改良事業の対象とならなかった場所には今も人が住み続けているが、それらの民家も崖地に土台を築いて建てている事には変わり無い。

道沿いに進むと途中から廃屋だらけの光景に変わる。改良事業の対象地区にされた家屋である。もぬけの殻となった住宅は道路から伸びる細く弱々しい階段が唯一のアプローチになっているかのようだ。まるで地下室の入口みたいにも見える。

谷戸の崖地に面して並ぶ不良住宅群は一様に老朽化が進んでいる。戦後のドサクサで建てられたものが多く、いつ地震が起きて被害を蒙るか分からない状況だった。土地改良事業の必要性があったのだ。

谷底に伸びる生活道路。高低差は3階建てのビルに匹敵している。ここで暮らしていた住民もかつてはこの細い階段を伝って家と外界を行き来していたのである。

閉鎖された生活道路には板橋区役所による案内の貼り紙が。どうやら平成23年度末までに工事が終わる予定だそうだ。それ以降はこの風景も見られなくなるということか。

しかしこの道幅の狭さは異常。東京とは一口に言えどもこんな住環境が未だに存在していたとは。それもつい最近まで人が暮らしていた空間だったというのが感慨深い。

崖上の道沿いに進むと、取り壊し工事が進んだ箇所には既に防音シートに覆われた塀が立ち並んでいた。人通りもなく寂しい道である。

そんな場所に似つかわしい、痴漢への注意を促す看板が個性的すぎて素敵。

「チョトしたスキをアキスが狙ってる」

…チョットじゃなくてチョトね、チョト。

だが崖上にも凄まじい住宅があるんですがこれも大丈夫なんでしょうかね。板橋区の底力を思い知る、大谷口界隈の住宅街の風景でした。


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