芝浦花街の痕跡・旧芝浦見番(協働会館)

芝浦界隈は江戸時代に遡ると江戸前の小さな漁村で潮干狩りなんぞを楽しむ行楽地だった。さらに魚市場まであって新鮮な魚介類が扱われていた事もあって、芝浦には料亭が立ち並び明治時代からは花街としても賑わったという歴史のある場所。
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それが戦時中、戦後となってすっかり港湾労働者の街になってしまい、かつての風情を留めるものは殆ど残っていない。
浜松町と田町の間にある旧海岸通りのJRの大きなガードを潜って、芝浦一丁目に残る芝浦花街の跡を訪ねた。


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JR各線や東京モノレールがせわしなく通り過ぎる交通の要衝にありながら殆ど人に見向きもされない寂れた街並みを見せる界隈。周辺は東芝本社ビルなどが立ち並ぶオフィス街で、あまり人の暮らしの匂いが漂ってこない場所だ。
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ガード下を潜ってすぐ右に入って田町方向に進むと芝浦花街があった所に行ける。途中にはぽつぽつと古い地元住民の民家があって、オフィスワーカー向けに弁当なんぞを売っている風景が見られるが、スーパーマーケットはおろかコンビニの一軒すらない殺風景な街だ。
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そんな道のりを進むと東京モノレールの高架脇に「牡丹」と書かれたビルが現れる。ここが芝浦花街の名残りとして現役で営業している料亭の一つ。
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「牡丹」の角を左に入るといよいよ花街の面影らしきものが見られる。ちょうど昼時に来たのもあって周りのオフィスビルからサラリーマンがわさわさ出没し始めた。あまりランチのレパートリーがなさそうなのか、そのへんの道端で弁当を売る業者の姿もある。
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周りを駐車場に囲まれてポツンと残った場所にある古びた二階建ての木造建築は芝浦花街現役当時に芸者の置屋として使われていた。築80年と言われるその建物、現在は「割烹い奈本」。
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建物前面にでかい木が覆い茂っているために全体像を見づらいのが残念なところだが、花街の名残りも殆ど失われ不毛の地と化した芝浦一丁目で「い奈本」は貴重なサラリーマンのランチスポットになっている模様。
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「い奈本」の裏手が駐車場になっているので、ちょうどよく建物を裏側から見る事ができる。さすが築80年の貫禄がある。
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その駐車場を挟んだ反対側にひときわ巨大な木造建築が目を惹く。これが芝浦花街の痕跡を今に残す「見番」跡。2階建てだが上部の屋根の重厚さから3階建てと同じ高さになっている。
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昭和11(1936)年に芸妓見番として建設された建物だが、戦時中に東京都港湾局の所有となり港湾労働者の宿泊施設「協働会館」として使われるようになった。結局そう考えると本来の目的である見番として使われた時期は非常に短かったようだ。
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…で、現在はこの建物自体が老朽化のためという事で2000年に閉鎖される。その前年に隣接する棟が火災に遭い、その際に3軒並んでいた建物の両脇が取り壊され、中央の1棟である現在の建物のみになった。
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今では全体に防護ネットが掛けられ無残な姿のまま何年も放置されているのだ。戦前から残る見番跡の建物は広い東京都内でもこの協働会館一軒しか存在しない。そのため保存運動が以前から巻き起こってはいるが、行政は放置プレイのまま。
網越しに重厚な木造建築の輪郭が伺える。立派な唐破風も見えるのだが、やっぱりそのままの姿で見たいと思うのが人情というもの。
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保存運動が盛り上がった結果、2009年になって港区の有形文化財の指定を受けるに至るが、だからと言っても本格的に保存工事をやる事もない。結局行政はやる気ナッシングのようで何ともお粗末な有様になっておるところだ。
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建物横が駐車場となっていてガラ空きなので運良く建物の横側も網越しとはいえきっちり観察する事が出来る。網に掛かる蔦の葉の伸び具合が放置の年月を物語るようだ。
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この芝浦花街の見番跡を建設したのは、あの有名な目黒雅叙園の創業者・細川力蔵氏。当時細川氏の自邸が芝浦にあり、それがきっかけで手がける事になったらしい。当時は細川氏の自邸を増改築して作られた料亭「芝浦雅叙園」もあって、芝浦がいかに花街として栄えていたかと物語る。
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そんな芝浦花街も今となってこのザマじゃなあ…
いずれ見番跡は取り壊されてしまうのだろうか。
そしてこの土地で育まれた文化や歴史も闇に葬られるのだろうか。
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あとは田町駅寄りの外れた場所にぽつんと花街時代の古い料亭建築が残っていた。見た目が廃墟みたいだが中に人がいたので、まだまだ現役のようだ。芝浦花街時代から残る建物は、旧芝浦見番(協働会館)、割烹い奈本、そしてこの一軒だけ。

東京 花街・粋な街
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東京DEEP案内の管理人です。2008年の開設以来、首都圏一都三県の街歩き情報を淡々と記録し続けております。いわゆる日陰者的物件、観光地にもならない場所、ちょっとアレな地域を見物・考察する事を趣味としております。2017年6月15日、単行本「『東京DEEP案内』が選ぶ 首都圏住みたくない街」(駒草出版)を発売。
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