東京駅から始まり、神田、御茶ノ水、四ッ谷、新宿と都心のコアエリアを突き進むJR中央線は新宿駅を過ぎてから所謂「サブカルの聖地」などと呼ばれる微妙な街を走り抜ける。
中央線快速電車は三鷹以西の多摩地区のベッドタウンから人並みのサラリーマンを乗せて走る電車であるが、都心に近い中野から吉祥寺までの区間では、社会の規律から外れた左翼かぶれや人並みの生活からドロップアウトしたヒッピー、もしくは悟りを開いた宗教家などが好んで集う、庶民的と表現するのとはまた違った貧乏臭くも華やかな街が並んでいる。
その最初の門前町とも言える存在が「中野」である。
古びた複合ビルにいつの間にかオタク的店舗が巣食うようになりサブカルスポットとやらで名を挙げた「中野ブロードウェイ」がある街。
東京~新宿間が都心ならではのご立派な摩天楼を見せる一方で新宿を過ぎるとのっけからキムチタウン大久保が現れ、その後はひたすら平坦で平凡な住宅地しか見えてこない。その落差が心地よいのだろうか。
西新宿副都心を間近に控える場所に中野駅はある。
中野駅はJR中央線、総武線各駅停車とともに、地下鉄東西線の終着駅でもある。人身事故も頻発する中央線だが中野までなら代替交通手段もあるのでそれほど問題はない。アクセス至便である。
中野駅の人の流れはひたすら駅の北口に集約される。目的地はだいたいその先に続くサンモール商店街と中野ブロードウェイだ。駅前はいつ来ても人でごったがえしているが、よく観察していると新宿や渋谷にいる連中とはかなり毛色が違うことが分かる。どこか垢抜けていない。
人権問題に敏感な関西人から見ると微妙なネーミングの不動産屋(笑)新宿へのアクセスのしやすさとボロアパート率の高さも相まって、中野駅周辺には不動産屋が腐る程ある。もっとも駅周辺に限ると繁華街しかないので住宅地を探すなら駅徒歩10分以上の場所がメインとなる。
いつ来ても繁盛しまくりの中野駅の北西の一角に建つ高層ビルは複合施設「中野サンプラザ」。主にコンサート会場として訪れる機会があるくらいか。
建物のでかさの割りにあまり有効活用されている感じがしないのは中野サンプラザ自体が現在の雇用・能力開発機構(無駄施設「私のしごと館」でおなじみ)である旧労働省所管の特殊法人「雇用促進事業団」が勤労者福祉施設の名目で建設したものだからだ。「全国勤労青少年会館」という正式名称もあるが、現在では運営を民間に譲渡されている。
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中野駅周辺の航空地図を見ると駅北西部分だけがやたら大雑把に開けているが、これは戦前に軍の諜報訓練学校である「陸軍中野学校」やその後には警察大学校(現在は府中市に移転)に使われるなど、官憲所有の広大な敷地が存在していた名残りである。
したがって現在でもこの敷地には東京警察病院、中野区役所といった官がらみの建物しか置かれておらず、警察大学校の跡地も再開発計画が挙がっているものの大半は空き地のまま放置されている。
中野駅を乗り降りする人々がほぼ一斉に吸い込まれる駅前商店街「中野サンモール」。
駅前から中野ブロードウェイの手前までを結ぶ全長240メートルの商店街だが、並んでいる店は殆どがチェーン店ばかりであり没個性化が激しい。とはいえ中野の街の活気が一番顕著に見られる商店街である。しかし道幅がそんなに広くないのに人がごったがえしているため、歩き辛くってしょうがない。
サンモール商店街の東側一帯は、またガラリと雰囲気を変えてごっちゃごちゃに入り乱れた居酒屋密集地となっている。
居酒屋が縦横無尽に広がっているため週末ともなると飲んだくれと居酒屋の客寄せが溢れ返っておりなかなかのカオスっぷりを見せる。そんな狭い通り道を、新井薬師方面に住んでいる地元民がサンモール商店街の人通りの多さを避けるように自転車で走りぬける。人口密度はパンク寸前だ。
人の往来が激しい濁流のような居酒屋密集地の傍らには淀んだ袋小路に怪しげな飲み屋が連なる一角もある。単なるサブカルタウンには留まらない多彩な顔を持つ町が中野駅界隈である。