横浜市港北区綱島 綱島温泉の痕跡

いまどき海外旅行だバカンスだなどとほざき温泉街なんて見向きもしねえよという奴がいるような時代だが、その温泉街ですら、箱根や熱海といったメジャーな所でも不況の波をモロにかぶって経営難に陥り閉鎖する温泉宿が少なくないと言われる時代。
しかし、もうひと世代遡ってみると、意外と東京の都心に近い所に温泉街と呼べる街が点在しているという事実に遭遇する事もよくある。もちろん最近のスーパー銭湯とやらで無理矢理地下千メートル級の穴を開ける無茶な工事をせずとも湧き出る、昔ながらの温泉のことだ。
それが都内だと大田区の蒲田周辺、千葉の津田沼、それに今回お送りする横浜市港北区の綱島温泉が有名である。かつて飛行機も新幹線もなかった大正・昭和初期を中心に、大温泉地として開かれた街だ。
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東急東横線の綱島駅を降りる。急行停車駅であり駅前はやや窮屈さを感じるものの賑やかな姿を見せていて、いかにもベッドタウンとしての存在感を定着させている。
しかしこの綱島がかつては「東京の奥座敷」とも呼ばれていた大温泉街だった事は東横線住民をはじめどれだけの人が知っているだろうか。そして駅名自体も「綱島温泉」と言っていたことを。


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やはり東急沿線らしく狭苦しい駅前にバスターミナルがあり、多くの路線が狭い駅前のロータリーに出入りしている。バスの離発着時は交通誘導員が注意深くバスを誘導する姿が見られる。
駅前が狭すぎるので一箇所だけ離れた所にある7番乗り場。鶴見駅から綱島駅との間を行き来している臨港バスの乗り場だ。
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西口に比べると若干寂れ気味な感じがしなくもない東口に綱島温泉の最後の生き証人とも言える「綱島温泉東京園」があると聞いて東口から歩いてきた訳だが、駅から少し離れると潰れて放置されたままの店もあって雰囲気が微妙。
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東口を出て南に下るとすぐに綱島街道と合流し、鶴見川に掛かる大綱橋のたもとの綱島交差点にさしかかる。
古い温泉街だった綱島温泉がかつて賑やかだった頃、この付近には連れ込み宿が多数存在していたと言われている。いかにも温泉街らしいエピソードが隠れているが、その名残りが鶴見川沿いに点在するラブホテルであるという話。
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綱島交差点付近にある「綱島東口再開発協議会」。西口と比べても東口は開発が遅々として進まないようだが、パチンコ屋やラブホテルなどがある胡散臭い土地柄と何か関係でもあるのだろうか。温泉街だったという特殊な歴史がそこに秘められているような気がしなくもない。
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確かに綱島東口の様子を見ると、妙に広大な古い屋敷がそのままデデーンと残っていたりする隣で、負けず劣らず広大なコインパーキングが置かれていて、土地活用の観点で言うと首を傾げたくなる要素が多い。

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航空地図を見ると綱島東口の不自然さが実感できるはず。これだけ広大な駅前の土地が殆ど謎のお屋敷群とコインパーキングだらけになっているのだから。開発大好きな東急グループでさえこの土地に突っ込めない理由が何かあるのだろうか。
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綱島温泉で現役営業中の唯一の店舗「東京園」の近くの綱島街道沿いには、今も温泉街であることをしのばせる古い旅館が数多く点在している。
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綱島街道から少し奥まった場所にある「きよ水」は敷地も広く、昔の広々とした風情を保っている。建物の後ろには裏山も迫っていてなかなか田舎臭い風景だ。
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もう一軒「まつ代」という旅館も残っている。どれもかなり年代物の建築である。
ちなみにこれらの旅館には温泉設備はない。
温泉付きの宿泊可能な旅館は2008年に横浜市教職員互助会の福利厚生施設だった「浜京」が閉鎖されたのを最後に無くなっている。
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綱島街道沿いに建つ歴史的木造建築とも呼べる佇まいを残す家屋。実は山口医院という個人経営の病院だったりする。
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綱島街道を駅前まで戻った所に、綱島温泉最後の生き証人とも言える「綱島温泉東京園」の建物がある。1914(大正3)年に温泉が発見されたという綱島温泉の歴史からすると後発の施設で、戦後間近の1946(昭和21)年にオープンしている。
料金システムが変わっていて、午後4時を境に二段階の料金設定がある。午後4時以前は大人900円だが1時間半以内に出ると400円のキャッシュバックがあり実質500円となり、4時以降は神奈川県公定の銭湯料金430円で入れる。
浴室はいたってシンプルに洗い場と浴槽しかない。かなり年季が入っているものの、とにかく広々していて開放的だった。温泉はやはり蒲田や津田沼などと同じ、関東独特の黒湯。蒲田のそれと同じくらい濃厚な湯で、入ると肌がツルツルになる。もっとも入浴客はご老人ばかりだが。
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風呂上りには開放的な中庭を眺めながらコーヒー牛乳を飲むのもよし、ビールや酒といったアルコール類、簡単な軽食も出来るが、それがまた異常に料金が安かったりするので驚いた。まさに敬老価格。恐らくそこいらのスーパー銭湯の半額くらいの相場である。
漫画本もネットも見ないのなら漫画喫茶で過ごすよりも間違いなく快適でリーズナブルだろう。
奥の宴会場は見事に老人憩いの家と化しており、演歌や浪曲が一日中大音響で流れる昭和のカラオケルームだ。ともかくタイムスリップ感の強い、綱島温泉の歴史を物語る最後の施設で過ごす非現実的で懐かしさがこみあげそうなひとときでした。

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