江戸川橋界隈 (3) 音羽御殿「鳩山会館」<後編>

民主党政権発足後初の首相となったもののわずか8ヶ月で退陣に追い込まれた鳩山由紀夫氏の祖父、鳩山一郎氏の私邸として大正末期に建てられた「鳩山会館」は入館料500円を払えばゴスロリ服着用者以外は誰でも入館出来る、鳩山一家の記念館である。

続いては1階に降りてきた。居間、応接間、食堂が並ぶ1階の部屋はほぼ当時のまま残されている。入館者が好き勝手に座って休憩することも出来る。庶民が味わえる束の間の「華麗なる一族」の世界が素で展開されているというわけだ。



居間の上座には、鳩山一郎氏本人が愛用していたひと際立派な椅子がそのままの状態で置かれている。しかし老朽化のため着座出来ず。

居間、応接間、食堂の外側には豪邸らしくサンルームまで置かれている。

戦後日本において昭和29~31(1954~56)年まで首相を勤め、現在の自民党の初代総裁、日本とソビエトの国交回復といった功績がある鳩山一郎氏の政治の場面に幾度となく使われてきた場所で、給水器から紙コップを取ってウーロン茶をひねり出してちびちびと喉を潤す入館者の爺さん婆さん達。ある意味シュールな光景だ。

そんな旧鳩山一郎邸の中で食堂の奥にあった和室が最も普通っぽかった。こうして華麗なる一族の大邸宅を一巡してみるが、豪華なのは確かとは言え、それほど巨大な家と言う訳でもない事が分かる。

サンルームの先から庭が広がっている。周りは鬱蒼とした森に囲まれて、東京のど真ん中に居る事を全く感じさせない。

噴水の前にも鳩山一郎氏の父である鳩山和夫・春子氏の夫婦の銅像が誇らしげに飾られている。周囲には鳩の像もちらほら見える。幕末の美作勝山藩の藩士だった鳩山和夫氏も衆議院議員で、和夫氏からすると鳩山由紀夫・邦夫氏は曾孫にあたる。邦夫氏の長男の太郎氏も含めると、政治家の家系が親子5代続いている事になる。

庭から鳩山邸を見つめるように立つ銅像は鳩山一郎氏のもの。杖をつく晩年の姿だ。
それにしても、洋の東西を問わず権力者は自ら銅像を作るのが大好きなようだ。

そんな一郎氏の銅像の足元に一株の薔薇が植えられている。その名も「友愛」

鳩山由紀夫氏が首相の時期に頻繁に口にした「友愛」というフレーズも、その言葉だけが一人歩きしているが、元はと言えばオーストリアの政治家リヒャルト・クーデンホーフ=カレルギー伯爵の「汎ヨーロッパ主義」に基づく政治思想であり、祖父である一郎氏からの受け売りだった訳なのだ。

しかしヨーロッパと東アジアでは政治も宗教も民族も事情がかなり違う。理念を実行するそれ以前に性善説で政治は動かず、アメリカにも「トラスト・ミー」と懇願して鼻で笑われてしまった。この先、東アジアはこの「友愛」の名を持つ真っ赤な薔薇と同じ色を国旗に使う超大国にまさに呑み込まれんとしている。

そんな訳で、幻と終わった友愛政権の脳内を現すかのごとく今もメルヘンチックなおとぎ話の世界が広がっている音羽御殿「鳩山会館」の薔薇園を楽しみつつ、邸宅を後にしたのである。

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