かつて織物産業で栄えた秩父には当時の栄華を極めた立派にレトロな街並みがしっかり残っている訳だが、忘れてはならないのが「花街」の跡だ。荒川の河岸段丘上に作られた秩父市街地の中心、下町(もとまち)に今も数軒の妓楼が現存しているというので見に行く事にした。
県道73号線の埼玉縣信用金庫秩父支店裏手に回る。この裏通りは「下平通り」と呼ばれている。そこに現在はヨガ教室として使われている二階建ての立派な妓楼(屋号は花月)がある。
明治期の建物らしいが保存状態がすこぶる良い。外観の装飾もそれほど痛んでいるようには見えない。ヨガ教室の店舗も違和感なくすっぽりと妓楼の雰囲気に溶け込んでいる。
建物横を見ると結構奥行きがあるのが分かる。昔は織物産業で栄えた他、奥秩父の三峯神社に参拝する(三峯講)人々がお参りの帰り際、精進落としにこの土地で羽目を外していたとか。
向かいにも同様にご立派な料亭風の建物がある。現在は個人宅になっているようだ。
さらに道路を挟んだ向こうにももう一軒、元妓楼と思われる建物がある。ここも個人宅。どの家も保存状態が良いので当時の街の様子が想像しやすい。
この付近は元花街の建物に限らず古いアパートも数多く残っている。月並みな表現だが、まるで時間が止まったような空間が続く。
特徴的なノコギリ屋根の元工場の建物もそのまんま。やはり昔は織物工場だったろうか。
そんな廃工場の隣にはこれまたレトロ具合の凄まじい銭湯が現役で営業していた。華奢な骨組みの煙突が存在感を示している。
看板はおもいっきり旧字体、これで「たから湯」と読むらしい。昔の人の書く字は難しすぎてさっぱり読めません。
余計な装飾は一切ないオーソドックスな玄関。どうやら秩父にはこの「たから湯」と「クラブ湯」の2軒しか銭湯が残っていないらしい。
たから湯の先にもまだまだ廃墟状態丸出しのオンボロ平屋建てアパートが連なっている。栄枯盛衰の結末を目の当たりにするかのような静寂に包まれた街並み。哀愁あり、物悲しくもあり。
その先はさっき見てきた「秩父国際劇場」裏手のアパート群だ。秩父市本町一帯の街並みは秩父原人の暮らしっぷりが濃厚に垣間見える貴重な場所である。