東京を代表する巨大ドヤ街「山谷」の歩き方 (2010年)

台東区

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ドヤ街・山谷のど真ん中に「いろは会ショップメイト」というアーケード商店街がある。山谷のマンモス交番の先から吉原土手の前まで続く全長300メートル程の商店街である。

最寄りの南千住駅から吉野通り沿いに商店街の前までやってくると、マンモス交番と商店街の入口の間は年がら年中酒盛り会場となっている。虚ろな表情だが眼光だけは鋭い飲んだくれのオッサン達の視線を浴びながら道を通り抜ける。山谷の中でも最も危険な匂いのする場所だ。

アーケード商店街の中は殆ど潰れた店だらけになっていて地方都市の中心市街地も真っ青の悲惨なシャッター街となっている。それでも2割くらいの店は辛うじて開いているので完全に廃墟という訳でもない。「いろは会」は東京で最も淋しい商店街の一つである。

東京最強のホームレスタウンの真っ只中にある屋根付き商店街がホームレスさんの寝床にならない訳がない。いつ商店街を訪れても道端でオッサンが布団を敷いて寝っ転がっている姿が見られる。

孤独なホームレス暮らしも山谷に来れば心強い仲間がいる。みんなで寝れば怖くない。よく見ればオッサン達はそのへんで酒盛りしてるわ、我々取材班の女性陣に「一緒に飲もうぜ」とちょっかいを出してくるわと、随分余裕そうな表情。

たまにバックパッカーでドヤに泊まる外人金髪姉ちゃんも酒盛り会場に混ざって異文化交流を楽しんでいたりして最近の山谷の変貌ぶりを感じさせられる。山谷が標準的な東京の下町だと思われたりして。違うから。

その昔は子供達が沢山いたであろう、廃墟と化した秩父屋という菓子屋の前はすっかりホームレスの住まいとなっている。しっかりと家財道具が置かれていた。

ホームレスに占領された感のある商店街だがそれでも昔からの住人はいるわけで、住民VSホームレスの仁義なき戦いは依然続いている。放っておけばどこでも寝るわ酒盛りするわ始末に大変である。

一方でベニヤ板などの木材と「木材差し上げます 無料です」と捨てた人の善意?の言葉が書かれた紙が置かれていた。どう見ても使い道のなさそうな廃材だがホームレスさんにとっては貴重な焚き火の火種なのだ。特に冬場には有り難いプレゼントである。

家を持たないホームレスさんの為にも商店街の一角には一回100円で使える福祉コインロッカーまで用意されております。右一列の大きめのものは8時間、その他は12時間、100円ぽっきりで荷物を預けられる。いつ来ても満杯で空きがあるのを見た事がない。

「このコインロッカーの収益は身障者・ホームレスの就職支援に使われます」とまで書かれているからガチである。

完全にホームレスさんの為の商店街と化している為か、潰れた店に違う業者が入居するなど商店街の新陳代謝は全くと言っていいほど存在しない。マジで死んでいる。

昭和の時代にはこれら一つ一つの店が威勢よく商売に励んでいたのだろうか。それにしても酷い有様である。既に十年二十年のスパンで放置されたかのような店も決してこの商店街では珍しくないのだ。

このへんまで来るとレトロ臭まで漂ってくるんですがいつ頃まで店を開けていたのだろうか、ディスカウント百貨センターの柴田商店。

店が開いているのを見た事がないが「ホルモン焼」の店舗の看板がある。本場・大阪西成にはかなわないが、山谷にもホルモン焼の店が非常に多い。

なぜか中国食品店の看板も見られる。東京のどこにでも中国人が進出しているが、さすがに山谷ではやりづらいのか、店を畳んでしまっている模様だ。

シャッターが開かれた右側の玄関口には「保証人不要」と書かれた入居者募集の張り紙があった。概要を見る限りは月極のドヤだろうか。

商店街のアーケードは途中で一度道を挟んで吉原土手方向に続いている。吉原土手側は薬局やスーパーもあって比較的まとも。それでも訳のわからんオッサンがふらふら歩いていたり寝転んでいたり相変わらずカオスだ。

アーケード上部に目をやると、いろは会商店街に入っている様々な店舗の宣伝文句が書かれている。みんな一生懸命考えて書いたのだろうが、店舗を見てみると既に半分くらい潰れたような感じなのでなんだか虚しい。

そんな中でも山谷暮らしのオッサン達に地味に愛されているであろう名もなき惣菜屋が細々と営業を続けている。

潰れた酒屋のシャッターが謎のアートスペースになっていた。切り絵細工だろうか、場所柄にそぐわずクオリティが高いので思わずじっくり見入ってしまった。

さらに酒屋の横手の壁にまでアートの世界はキャンバスを広げていた。

一体いつ頃誰が何の目的でどのくらいの期間でこの場所でこの絵を書き上げたのか気になってしょうがなかったが詳しい情報は分からない。やっぱりモチーフは吉原の花魁だろうか。

商店街のアーケードが途切れた先、土手通りを挟んだ向こうは吉原遊郭跡。この界隈はいつ来ても人間の生と死の匂いが濃密に感じられる場所である。



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