東京都港区芝浦四丁目、JR田町駅、品川駅、京急泉岳寺駅、どの駅からも徒歩10分以上離れた場所にある「高浜橋」のたもとに、芝浦運河に沿って戦後のドサクサで生まれたバラック村が今日まで生き続けてきた。在日朝鮮人を中心に貧困層がこの土地になだれ込み、芝浦屠場がすぐ近くにあるという地の利から3軒ものホルモン焼肉店が密集し、その姿は戦後東京における在日コリアン史に残る生々しい歴史の一ページを刻むかのようだった。
往年の芝浦高浜橋ホルモンバラック村を象徴するかのような佇まいの焼肉店「シーパラダイス」のギラギラした怪しいネオンサインを轟かせる店舗も、この土地を一言で物語る強烈な存在感を持った店だった。初めてこの場所に我々取材班が足を運んだのが2009年、それから5年が経って、この場所はどう変わったのかを再度レポートしたい。
田町駅芝浦口からとぼとぼ歩いて片道10分少し、ようやく高浜橋のたもとまでやってきたのだが、創業80年超の歴史を誇っていたあの伝説的ホルモン屋「やまや」が廃業を迎えた2013年2月以降、てっきり立ち退きが進んでいたものだと思っていた。しかしまだバラック村は残ったままだ。
「営業中」なのか「CLOSED」なのかよく分からない、唯一現存するホルモン焼肉店「はるみ」。隣の「やまや」が廃業して解体された後もしぶとく立ち退きを拒んで営業を続けている模様。昼のランチ営業はもうしていないらしいが、夜のみ営業しているようだ。
しかし「はるみ」の左隣に並ぶバラック民家二軒はどちらも立ち退き交渉に応じたようで、既に引越し済。空き家のまま放置されていた。いずれはこの二軒も解体されるのであろう。
空き家となった住居の玄関には「立入禁止 この建物は東京都が所有管理しているものです。許可なく立ち入ることを禁止します。東京都第一建設事務所」と書かれた貼り紙が掲示されている。
そして、以前怪しいネオンサインを輝かせていた「芝浦ホルモン シーパラダイス」の店舗と隣の民家も併せて解体されてしまっていた。
シーパラダイス跡地はすっかり空き地と化し、かつて建物があった敷地にフェンスが掛けられ、奥の民家へ続く路地と区切られている。綺麗さっぱりしてしまいましたね…
以前来た時にはその存在に気付かなかった、シーパラダイスと隣接する家屋の隙間にあった奥の民家へ続く路地。この先には未だに立ち退きを拒み続けている住民が数世帯暮らしている。
高浜橋側から今も人が暮らしていると思われる、川べりに建つ家屋群が見られるが、どう見ても建設現場の仮設のプレハブ小屋同然の建物だし、建物の一部は土地を確保するため運河に足場を掛けて大きくせり出している。
このバラック村の成り立ちは戦前の昭和15（1940）年頃からで、当時芝浦に建設中だった海軍経理学校や水道局の工事関係者が住み着き始めたのが最初で、それから芝浦付近や日の出埠頭の荷役などの港湾労働者が生活してきた。日本人と在日朝鮮人の比率は半々くらいだったという。
バラック村に対し東京都が立ち退きを進めている理由には「高浜橋架替え事業」がある。橋の幅を現行の17．5メートルから約27メートルに拡幅、25トン車の通行に耐えられる技術基準に適合した橋に架け替えるという話だが、橋の整備範囲にバラック村の敷地が思いっきり含まれているのだ。
容赦なく昭和の残滓を削り取ってゆく行政、ここは都有地であり、今建っているバラックは不法占拠であると言わしめるかのように掲げられた看板。バラック村の住民は2016年の高浜橋の架け替え工事が終わるまでに全員立ち退きさせられる事になる。
昔はバラック家屋が高浜橋北側の東西両方に二十数世帯も並んでいたというが、既に東側にあった家屋は解体が終了して空き地となっていた。
この橋の東側にあった建物というのがキョーレツで、二階建ての家屋のど真ん中を川向かいの芝浦水再生センターから連なる巨大な下水パイプがぶち抜いているという凄まじい図が見られたのだ。家の真ん中に巨大下水パイプが貫通する住環境なんて、なかなかありませんよ。しかも一階部分は運河のギリギリ下まで足場が張り出されていて、満潮時には家が床下浸水しそうな勢いだ。
この建物も現役当時は「スナック＆お食事ブリッジ」という飲食店として営業していた。ここも立ち退きに応じており、2013年の時点で解体が確認されている。消え行く「戦後の芝浦」…真向かいは立派なタワーマンションがそびえていて対比が半端無い訳ですが、バラック村も見納めの時は近いようです。
