いのちの電話広告、青色半透明板、自然映像モニター…それでも5年で人身事故29件!自殺志願者の集まる「新小岩駅」の憂鬱

葛飾区

東京都葛飾区にあるJR総武線新小岩駅が「自殺の名所」としてすっかり有名物件になってしまった。2011年からの5年間でこの駅で起きた人身事故は29件。内訳は男性15,女性7、不明7となっている。

葛飾区 新小岩

東京に住み鉄道を利用する限り、人身事故の現場を目撃する事が無くとも、誰かしら人身事故の影響で足止めを食らったりする機会は一度や二度のものではないが、特定の駅でこれだけ人身事故が集中する駅は新小岩以外にない。

「5年間で29件」という異常

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その端緒となったのは2011年7月12日に総武線快速ホームで起きた人身事故、そして翌日にも同じ快速ホームで立て続けに人身事故が起き、この事が大きく報道されたのがきっかけで「新小岩駅が自殺の名所である」と噂が立ってしまったのである。それまでは年間1~2件しか無かった事故がこれにより急増した。7月12日の事故を便宜上これを「最初の事故」と呼ぶ事にする。

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7月12日の事故では3番線を通過する成田エクスプレスに飛び込んだ中年女性が電車に跳ね飛ばされ、ホームにあったキオスクに体ごと突入し死亡、付近に居た客やキオスクの従業員が巻き添えを食らい負傷、この事故が大きくテレビ報道された。

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そして翌13日にも、中年男性が4番線に飛び込み死亡。これ以降、1~2ヶ月に1件のペースでコンスタントに鉄道自殺が起こるようになったというのだ。累計29件の年ごとの内訳は2011年に8件、2012年に4件、2013年に6件、2014年に5件、2015年に6件である。

当取材班はこのうち2011年7月12日の「最初の事故」の直後新小岩駅快速ホームを訪れている。キオスクの店舗は養生が施され閉鎖中だった。

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相次ぐ人身事故発生で新小岩駅の改札には警察官が常時待機し利用客の往来を監視しているという非常事態となっていた。いつ何時自殺志願者が現れるか分からない状況にJR東日本も警察もピリピリしまくっている。で、評判の快速ホームというのは3番線と4番線。早速上がってみる。

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自殺を抑止する効果があるらしい青色半透明アクリル板の効果は…

飛び込み自殺が相次ぐ新小岩駅ホームには、「最初の事故」以来累計17件の人身事故が起きていた2013年10月末の時点で自殺防止対策として様々な手が加えられていた。まず気になったのが天井に設置された青色半透明のパネルである。これは太陽光を通してホーム内を青く照らす効果がある。

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「グモの王者」中央線ホームなどに多数設置されている青色照明と同じように、心理的に抑制効果のある青色の光を置く事で自殺を抑止しようという事らしいが、こんなもので鉄道自殺が止む程簡単な話ではないのだ。

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この青色半透明アクリル板は新小岩駅の各駅停車ホーム、快速ホームの両方に多数取り付けられていて、昼間にやってくると見ての通り青一色の光景となる。また夜間は青色照明に変わるようである。いくら鉄道自殺の件数が多い首都圏の鉄道駅と言えども、自殺防止対策の為にここまでやるのは前代未聞の話である。

ホームの至る所に「いのちの電話」ラッピング広告

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様子が変わったのはそれだけではなかった。ホームと改札とを結ぶ階段部分のタイル壁一面には「自殺予防 いのちの電話」の全面ラッピング広告があちこちに貼り付けられていたのだ。これを見るだけでも、今の新小岩駅はもはや非常事態以外の何者でもない。駅全体が「自殺予防キャンペーン実施中」状態なんだもん。普段この駅を使ってる人達も、どう思ってるんだろう。いい気分はしないはずだ。

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「国際ビフレンダーズ・東京自殺防止センター」というNPO法人による広告が快速ホームと各停ホームの両方に設置されている。だが死ぬ事しか考えていない人間にはこんな広告の存在など目にも入る余地もなかろう。これらの対策が気休めにしかならない事は、一向に飛び込み自殺が無くならないという現実が示している。

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新小岩駅では地元の葛飾区からも含めてJR東日本に「ホームドア」設置の要請を望む声が日に日に高まっている。ホームドアを置くには駅ホームの改修を含めて相当な費用と時間が掛かるのと、通勤ラッシュ時の混雑を捌くのにホームドアが邪魔になるからか知らんがJRは設置には積極的ではなかったが、自殺防止や安全上の観点からJRの駅にも徐々にホームドアの設置が進んでいる。だが、現状では山手線の一部の駅のホームでしか運用されていない。

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そうこうしているうちに問題の通過特急列車「成田エクスプレス」が4番線ホームを100キロ以上の速度で大爆走していった。これだけのスピードが出ている電車に人間の体が当たれば、間違いなく死ねるには違いない。

しかも運転手から見るとこの駅のホームは微妙に湾曲している為、ホームにかなり近づかない限り飛び込み自殺をしようとする人を視認できないというのだ。そして、快速ホームに配備されている警備員はわずか1人。やはり気休めにもならない。ホームドアを置くしか効果的な対策はないだろう。

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最初の事故でおばさんが飛び込んだキオスクの店舗は「ニューデイズ」に衣替えしてました。まあなんというか、ここで仕事している従業員さんはタフじゃないと務まりそうにないですね。

新小岩駅を取材中にまさかの人身事故遭遇…

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新小岩駅を取材する為に何度か訪れていた時期に、あろうことか18件目の人身事故に偶然遭遇してしまった。2013年11月2日の夜10時の事である。総武線各停1番ホームにおいて70代女性が千葉発三鷹行き電車に飛び込み即死。ホームの端で駅員や警察官が大勢集まり、白い布で隠して犠牲者を搬送中。

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その後、駅ホームから改札外に向けて「犠牲者」の搬出が始まった。この通りブルーシートで360度覆い隠してのっそりのっそりと移動する。日本ではこういう事故現場では殊更遺体を見せないような配慮が行われるが、それでは鉄道自殺の悲惨さが分からないと思う。

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我々取材班も長年東京に暮らしているが、こんな現場を目撃したのは全くの初めてである。しかし新小岩駅では5年間で29件もこうした「処理」が繰り返されている訳で、全く駅員も警察官の方々も慣れた表情だが、たいそうご苦労な事である。

今度は自然映像を流す自殺防止用モニターが設置される

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2015年に入ってから新小岩駅の改札フロアに二ヶ所、このような三連の大型モニターが設置されている。映像にはひたすら山や川や海といった何の変哲も無い自然映像がハイビジョンで延々と流されている。勿論このモニターは自殺防止用に設置されたものであるのは言うまでもない。

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さらに同じ改札フロア内にもう一ヶ所、三連の大型モニターが置かれている。これが何の目的で置かれているかについての説明書きは一切ない。新小岩駅とは何の関係もあるはずもない、雄大な自然をひたすら見せ続けるだけ。新小岩駅が「自殺の名所」としての不名誉なレッテルを外されるその日まで、この駅では今後もさらなる自殺抑止実験が行われるのであろう。


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