新御徒町駅南側、日本で二番目に古い商店街らしい佐竹商店街を抜けた先にある都営住宅「台東小島アパート」(1964年築)の中にお邪魔してきた。
11階建て団地の最上階まで上がると、見晴らしの良い屋上に辿り着く。建物中央の吹き抜けから階下の各世帯への玄関口が連なる廊下が見られる。恐らく高齢化率は50%を超えるだろうヴィンテージ都営住宅、そこは都市の時間の流れから著しく隔絶された異空間である。
転落防止のフェンス越しに吹き抜けの真下を見ようとするが、底が全く見られない。一昔前ならこの吹き抜けから子供の遊ぶ声がキャーキャー聞こえてきたのだろうが、今では聞こえて来るはずもない。爺さんの咳払いの声か婆さんのクシャミくらいである。
そんなフェンスに沿って住民が家庭菜園をやっている。まったくもってフリーダムな光景である。都会のど真ん中でスイカを栽培してるんだもの。
基本的に屋上は洗濯物を干すスペースとなっている。高度経済成長期の古い団地にはよくあるパターンだ。とはいえ干されている洗濯物の数よりも植木鉢やプランターの数の方が多いという状態。つまりここは東京のど真ん中にある見放された田舎なのだ。
昔の団地では当たり前だったかも知れんが誰の洗濯物なのか住人同士で分かってしまうというプライバシー皆無な生活空間というのは、今どきの感覚では受け入れ難いものになってしまった。ここならババアの下着が干してあっても誰にも盗まれる事がない。
農作業?をしている住民の爺さん以外は人の姿もない。長年日光と雨風に晒された屋上のコンクリート床が真っ黒に変色している。
外側のフェンスから外界を見下ろすとそこには佐竹商店街のアーケードと周辺の家並みが見渡せる。築50年近い団地よりも高い建物が殆ど無いのには笑った。さすがガチな下町・台東区クオリティ。
さらに奥へと進むと貯水槽の乗った棟の軒下に奇妙な場所を見つけた。壁と天井一面が真っ黒に染まっている。
その正体は、使われなくなって錆だらけになった古い焼却炉だった。
これも今どきの感覚ではあり得ないのだが、昔の団地では屋上に焼却炉が普通に置いてあって家庭ゴミが燃やし放題焼き放題だったのだ。お払い箱になった焼却炉の上は物置場と化している。
焼却炉のプレートに製品名と使用方法が書かれていた。旭設備工業株式会社の「旭A型市街地焼却炉」。メイドイン東墨田。ダイオキシンがどうだの言われていなかった時代の遺産である。
焼却炉の上はコンクリートの天井に覆われていて排気ダクトはどこにも取り付けられていない。不気味な程に煤だらけである。
よくこれで火事に遭わなかったものだなあと感心するが、そんな台東小島アパートは昭和ど真ん中世代の団地での生活っぷりを思う存分想像する事が出来る素敵な教材であるとも言える。
洋泉社
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