夕暮れ時にぽつりと訪れた我々取材班を出迎えたのは夥しい数の水子地蔵がひな壇状に並ぶ光景だった。山口観音は水子供養の寺として地元では名高いようだ。
ここは冥土の西武球場か、スタジアムの観客席もとい、ひな壇を登り詰めて先へ進む。
するとひな壇の最上部にはこれまた無駄にご立派な中華風デザインの線香鉢とともにお堂が置かれていた。説明書きが傍らにある。「日本で初めてビルマからのお釈迦様です」と微妙に日本語がおかしい気がしなくもないが、お釈迦様が鎮座しているようだ。
お釈迦様の御尊顔は残念ながらガラス窓に遮られてよく見えなかった。どうやら横側から覗き窓が開いていてお釈迦様の横顔や後姿が拝めるらしいが、なんだか新宿歌舞伎町あたりの場末ののぞき部屋を想起するようで後ろめたい。覗き穴から見るような拝み方でビルマの仏さんに失礼はないのか疑問だったが、まあいい。
ひな壇を上り詰めて振り返ると、本堂の屋根がはるか下に見える。狭山湖と多摩湖に挟まれた一画で、周囲は鬱蒼と森が広がっているのみ。
ふと目の前を見ると、巨大な龍の身体と頭が階段伝いに続いている。山口観音の住職さんはとにかく龍が好きでたまらないようである。
さらに奥へ進むと、まだ目新しい感じの残る大日堂が森の中に建っている。
大日堂の脇に並ぶ石仏群も、まだ出来たばかりなのかして妙に綺麗だった。
そして再びその先から伸びる上り階段。またしても巨大な龍が階段の両脇に身体をうねらせてこちらを見つめている。
階段を登っていくと、その上にはまたまたご立派な八角形の五重塔がそびえているのが見える。階段脇はひな壇状のスペースが余っている。ここもそのうち水子地蔵の姿で埋まるのだろうか。
階段の上から今登ってきた場所を眺めると、巨大な龍の全身を拝む事が出来る。なんだこのリアルドラゴンボール状態は。
この五重塔も最近作られたのか、朱色が眩しいくらいに明るく目新しい。しかし随分と色んな物をこしらえてしまったもんだな。そんなに参拝客で賑わっている訳でもないが、それでもよほど資金が潤沢にあるのだろう。
ちなみに五重塔の中も有料で拝観出来るそうだ。内部には千体観音堂があるなど見所もあるが、来た時間が遅すぎて、もう閉まっていた。
さらに五重塔の足元を見ると「仏国窟入口」と記された怪しげな洞窟の入口があって非常にそそられる。穴があったら入りたい煩悩炸裂の我々取材班が見逃すはずもなかろう。
しかし味気ないコンクリート壁の通路に淡々と仏像が並んでいるだけという、ちょっと期待はずれな光景が続いているだけだった。
五重塔の下をくるりと半周するだけで、程なく外の世界に舞い戻ってしまう。
出口から外に出た所で、かなり西日が傾いてきた。もうそろそろ寺も閉まる時間のようだし長居する用事もないので、山口観音を後にした。ユネスコ村無き今、ここが唯一のテーマパークのようです。テーマパークとは言っても、宗教テーマパークね。