【横浜市】無残に潰されたヨコハマ最強の暗黒街「黄金町」ビフォーアフター 

横浜市中区

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桜の花も咲いた頃に、再び黄金町の街を訪れると、あの陰鬱なゴーストタウンがまるで一変していた。大岡川沿いで桜祭りが開かれていて、何度も訪れて見慣れたはずだった黄金町の「ちょんの間地帯」には大勢の家族連れやカップルだらけで、180度違う空間に変わっていたのだ。

川沿いの歩道ではドラムのセットも置かれて束の間の野外ライブハウスと化している。大空の下で豪快に演奏を繰り広げる人々、それに合わせて手拍子をする人々、歌う人々、一体なんなんだこのリア充ワールドは。

これが現在の黄金町界隈で見られる日常のひとコマなのだ。現役時代を知る人には隔世の感がある光景かも知れない。

かつて戦後間近の時代には水上バラックが建ち並び、常にゴミと糞尿の臭いが立ち込めていたという大岡川の両岸には見事に桜の花が大輪を咲かせて、川の中央を屋形船が行く。

現在の黄金町、行政や地域住民、NPOが主体となった街づくりが展開されているそうで、桜並木に沿った遊歩道も近年整備されたという。狙って桜祭りの日に来た訳ではなかったが、たまたま訪れた黄金町の街からはアンダーグラウンド色は一掃されてしまっていた。

とは言っても街のあちこちにちょんの間時代の建物が生々しく残っているような場所だ。根っからの横浜育ちの男なら一度くらいはお世話になった場所かも知れない。複雑な感情に苛まれる街だ。「ねーパパ、ここはどんなおうちなの?」などと子供に聞かれたらどうしよう。

音楽と屋台料理の臭いと喧騒に圧倒される大岡川沿いの遊歩道から一歩中に入ると、そこはやっぱり元からあった暗黒街そのままの空気が澱んでいる。

ベルリンの壁よろしく、高架下に連なる鉄のフェンスが壁のように迫る路地。せめてもの華をと、か知らぬが場所柄に合わず大きな絵画のプリントが飾られている。

その一方で、往時の雰囲気を偲ばせるかのように残る啓発看板「暴力のない明るいまち」。鉄のフェンスに直接ペイントされている爽やかな空と海のイラストが、かえって痛々しい。

元スナックの一画が、ちょうど改装工事の最中だったのか、妙に忙しくしていた。黄金町界隈では、徐々に飲食店を開業する個人オーナーが現れ始めている。

この裏寂れた旧私娼窟の路地も、もしかするとあと数年で何のツッコミどころもない平凡で普通の飲食街に変わってしまっているかも知れない。

特に大岡川に面した部分の旧特殊飲食街のテナントはチャレンジショップ的ノリの若い個人オーナーが次々に居酒屋やカフェなどを開業して、コンセプトがてんでんばらばらの個性的な店を並べているのだ。

京急の高架下に至っては、ガラス張りのやたらおしゃれな「アートスペース」が展開されていて、まるで別世界と化しているのだ。かつての黄金町では考えられないような「街づくり」が展開されている。

これもアートスペースの一つで、様々なアーティストの表現が展示されている光景が見られる。黄金町はアングラだから魅力的なのに…と思うかも知れないが、そのままゴーストタウンにしておくよりも、アートスペースにでもしておいた方が行政にも住民にも良いはず。

時代は流動的で、半世紀もすれば同じ場所でもそうとは気づかない程変わってしまっても何の不思議もない。我々が見た黄金町の風景も、長い街の歴史のほんの一瞬にしか過ぎないはずだ。


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