東京23区でぶっちぎりの低所得者層密集地域で犯罪多発地帯だとすっかりレッテル貼りされて久しい「足立区」も十把一絡げに荒っぽくまとめて語りきれない程に広大な面積を誇っている。53.25キロ平方メートル、東西11.1キロ、南北8.79キロメートル、区域は全体的に川沿いの低湿地帯で、そこに68万人もの人口を抱えている。
しかし区内で人口が増加しているエリアは都心に直結する電車が走る東武伊勢崎線やつくばエクスプレス沿線の街ばかりで、鉄道不毛地帯となっていた足立区の西部は2008年に日暮里駅を起点に尾久橋通り沿いを通る都営の新交通システム「日暮里舎人ライナー」が開通したにも関わらず不動産人気が薄く人口が減少し続けているという。今回はそんな街の中の一つ「扇大橋」と隣の「高野」の二駅周辺の街並みを観察する。
知られざる足立区「扇大橋・高野」両駅の周辺を歩く
荒川を渡ったすぐ先にあるのが「扇大橋駅」。日暮里から5駅目、片道9分という立地にありながら、新線開業から8年経っても1日平均乗車人員は約3500人(2013年)と、JR都区内駅で乗車人員が最少の京葉線越中島駅よりも少ない。やはり運賃の高さがネックなのか。日暮里からここに来るのに280円(ICカード利用の場合は278円)が必要だものな。
さらに隣にある「高野駅」とは直線距離でたったの500メートルしか離れていない。どちらの駅も住所は足立区扇に属するが、元々は「南足立郡江北村字高野→足立区高野町」という地名だったらしく住居表示実施以前の古い地名が駅名に反映されている。こちらは1日平均乗車人員が約2300人(2013年)。いずれの駅前もお世辞にも栄えている様子が皆無なのであるが…ちなみに「高野」は音読みで「こうや」が正解。
そんな駅前が何にもない砂漠の荒野のような高野駅前にジャンジャンバリバリパチンコ玉の音を響かせているのが駅前唯一のランドマーク「メッセ扇店」。駅前で一番人通りが多い、言わば街の中心になっている訳ですが、そのへんはさすが足立区クオリティですね。
折しものリニューアルオープンでスロット増台・地域最大級234台をアピールしまくりで平日昼間であるにも関わらず駐車場も駐輪場も満杯となっているメッセ扇店。大型パチンコ店がしのぎを削り合うナマポ貧民王国足立区ならではの光景である。
一方で傍らを走る尾久橋通りに目をやると通り過ぎていくトラックには「アラサー女子の高収入求人サイト」の広告が…言うまでもなくソッチ系の求人サイトなんでしょうが、これが足立区の日常風景なのか。最近新宿や渋谷あたりで「♪バーニラ、バニラ」と間抜けな歌をガンガン大音響で流しているのとは別の企業ですかね。
尾久橋通り沿いはこのようなロードサイド型飲食店やスーパーが主な店舗となっていて、これに「山田うどん」さえあれば完全に埼玉のロードサイドの街並みと同じだ。いずれも日暮里舎人ライナー開通後に出来たと思しき新しい店ばかりである。そしてやけに焼肉屋が目立つ件。
この界隈に焼肉屋がやたらと多いのは、戦前、荒川放水路の建設工事に携わった在日コリアンの子孫が西新井及び足立区南西部の荒川沿いに今なお多く住んでいる事と無関係ではない。扇大橋駅の近くには「平壌苑」というそのまんま北朝鮮の首都の名を冠した焼肉店もある程だ。
扇大橋駅近く、尾久橋通り東側の路地に渋い店構えで営業している焼肉レストラン「平壌苑」。飲食店不毛地帯な扇大橋駅周辺で食べログ検索すると断然上位なんですが、さぞかし地元に愛されているようで、この辺の住民が「ピョンヤン行こうぜ」と言うのは北朝鮮ではなくこの店に行く事を意味するそうですよ。
ロードサイドを除いて飲食店が滅法少ない扇大橋界隈だが肉体労働者も多いお土地柄なので、こうした普通の街の惣菜屋で弁当を販売しているところもある。こちらの「精肉田中」は本来お肉屋さんだが、惣菜や弁当を揃え地域のドカチン各位の胃袋を支える。店内に座敷席があって中でトンカツや牛たたきが食えるらしい。
一方で扇大橋駅前から尾久橋通りの西側に入ると「浄土宗木余り性翁寺」という神亀3(726)年、行基によって開かれたと言われる古刹がなんの気なしに半工業地帯の住宅街の片隅に鎮座している。かつて「足立姫」という不幸に人生を閉じた女性の伝説とその墓地があって、江戸時代には女性の信仰を集めたとか言われる寺院ですが…
性翁寺の入口はごつい鉄格子で丸々覆われていて自由に出入りする事もできないし、寺のいわれを説明する足立区教育委員会の案内板も鉄格子が邪魔をして読めないという状況。ここは東京修羅の国・足立区。やはり防犯目的、地元のDQN避けなんでしょうね。悲しい土地になってしまいましたね。
そんな性翁寺への道すがら目についたのが地元の子供の溜まり場となっている「おやつ屋彪櫻」(←読めません。たけさく、だそうです)子供の下校時間帯には100円でクレープが買えたり180円でもんじゃ焼が食えたりできるそうで、昼間のランチタイムには850円でドカ盛り定食も食える、地元の肉体労働者と子供の強い味方となっている模様。
性翁寺から先の荒川寄りに進むと今度はマルマサ製菓というローカル臭漂う製菓工場もあって、ゴーフレット等の菓子製造をしている。店先でお菓子も買えるみたいですよ。良かったですね。あと外観写真には収めて居なかったが近所に「大江戸きんつば」の工場もある。甘い和菓子が地域の肉体労働者の癒やしになっているのだろう。
そして荒川土手に面して首都高が頭上を走る都道沿いにはかつて本木あたりに存在していた在日コリアンを中心としたバタ屋(廃品回収業)密集地帯の名残りを思わせるような、廃棄物処理業者の工場が続々と現れる圧巻の光景が。
新聞、雑誌、鉄、スクラップ、廃棄物持込歓迎な「飛鳥興産」の工場脇には以前パチンコ屋にでも飾られていたのかと思しき気の毒そうな七福神像が。やっぱり捨てるには心が痛みますかね…
東京屈指の心霊スポットとして一部のマニアには有名らしい「江北橋」手前にある歩道橋の上から扇一帯の街並みを眺められる。眼下にはやはり廃棄物処理業者の工場があり、尾久橋通り沿いを除くとあまり高い建物自体がない事が分かる。あんまり「東京23区」という感じがしないのが特徴です。
それから都営住宅住みの貧民各位にはあまり馴染みのない、住宅用建材(タイガーボード)で知られる吉野石膏の東京工場もこの近くにある。昔からTBS「報道特集」のスポンサーでここのCMが頻繁に流れていたので中年以上の方は馴染みがあるかも知れません。まあこの界隈、平たく言えば工業地帯なんですね。