JR大森駅前に「地獄谷」と呼ばれる飲食店街が存在している。耳にしただけで、一体どんな所やねんと思うようなネーミングの場所だ。大森駅山王口の池上通りと駅のホームとを挟み込むように谷底に広がっている横丁である。
地獄谷の正式名称は「山王小路飲食店街」。
今でも約40件ものスナック・バー、居酒屋が谷底にひしめき合う怪しい夜の街。
「地獄谷」とは何を意味するかと言うと、一説には舗装された階段がなかった昔の雨の日に谷底にある飲み屋から泥酔客が急坂を上がれず帰れなくなるという事から来ているとか。
この横丁へ足を踏み入れるには必ず階段を降り、横丁を出る時には階段を登らなくてはならないのだ。
「地獄谷」に降りてみると、商店街の裏に並行するように100メートル足らずの路地裏風景が連なっている。
その地形の特殊さと地獄谷という名前からとんでもない光景を思いめぐらせながらやってきた訳だが、いざ実際に訪れてみると期待していた陰鬱さはなく実にこざっぱりとした横丁である。新宿ゴールデン街のような場末の怪しさも無いし、東上野キムチ横丁のような生臭さも無い。ちょっと寂しい。
ベタな居酒屋やスナックに加えて所謂「隠れ家的」なお洒落レストランも紛れ込んでいて、そのへんは山王の高級住宅街の住人に照準を合わせているのだろうか。
とはいえ、そこはまさに「谷底」と言うべき世界だ。狭い道幅の路地が一直線に続き、坂の上の商店街に向けて玄関口を開けている商店ビルに遮られて日の光もなかなか届きはしない。
この「地獄谷」に通ずる階段は計3ヶ所にあり、北側へ行くほど階段の上は八景坂を登ってゆく為、階段の数も多くなる。したがって駅から一番手前の階段を利用すると楽ということになる。
さすがに飲食店街だけあって共同便所もきちんとしたものが置かれていて、比較的清潔的な佇まいである。地獄谷は天国谷だった。
谷底をずんずん進むと、すぐに端から端まで歩けてしまう。それほどの規模でもないという事だが、この一角だけは怪しい場末のスナック街の風情が色濃く滲み出ていて、雰囲気が良い。
スナックの建物の隙間から京浜東北線のホームが見えるのである。ちょうどホームと地獄谷は同じ高さにあるという事が分かるだろう。地獄谷とは言うが、JRの線路さえなければ大森駅東口ともほぼフラットなのである。
改めて、通ってきた地獄谷に筋を振り返る。こうして見るとなかなか素晴らしいロケーションだ。しかし雰囲気が本格的なのはやっぱり日が暮れてからだろうな。
北側の突き当たりから商店街に抜ける階段を上がる。駅に近い南側の階段よりも、階段が1.5倍(当社比)くらい増えてる気がするんですが気のせいでしょうか。
階段を登りきって池上通り沿いの山王口商店会から眼下の地獄谷を望む。ビル3階分の高低差はあるだろうか。どうでもいいがサイゼリヤも地獄谷を下らなければ店に入れなかったりするのね。
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