錦糸町の隣、貧民御用達スーパーがあったり九龍城があったりオウムが炭疽菌をばらまいたりと色々アンダーグラウンドな臭いの漂う街が亀戸だが、対外的には「亀戸天神社」が有名である。
全国各地の天神社と同様、菅原道真を祀る学業成就祈願の神社として多くの参拝者が訪れる場所だが、この亀戸天神社の裏はかつて花柳界が広がっていて、戦前には沢山の芸妓置屋、料亭、待合などが軒を連ね隆盛を誇っていたという事は今の世代にはあまり知られてはいない。
亀戸天神裏には花街だけではなく、玉の井と引けを取らない大規模な私娼窟まで存在していたという。今では全然面影は失われているようだが、少し亀戸天神社の周りをうろついてみようと思いやってきたのだ。
亀戸天神社へは亀戸駅北口から北西方向に徒歩10分程度。正面の鳥居を潜るとその先には立派な太鼓橋がある。
境内中央は九州の太宰府天満宮にならって心字池があり、三つの橋が掛けられている。その間の参拝路は藤棚と梅の木で囲まれている。
梅や藤の開花時期には梅まつり・藤まつりが開催され参拝者で賑わう。
心字池に目をやると、至る所で亀がひなたぼっこをしている光景が見られる。さすが亀戸天神だけに亀がトレードマークなのかと思うが、どこの神社の池にもいるっちゃいるし。池の真上に藤棚が掛けられている。藤が満開の時はなかなか綺麗だ。
さすがに合格祈願の神社だけあって絵馬の内容は揃いも揃っている。東京の天神社の中では湯島天神と並んで有名で、絵馬の多さが参拝者の多さを物語っているかのようだ。
池の傍らには木彫りの鶯と石像がある。鶯の古名がウソといい、これまでの不幸や悪事を「嘘」にして新しい木彫りの鶯に取り(トリ)替えるという縁起担ぎで、毎年1月に鷽替え神事が行われる。天神様は合格祈願だけかと思ったらそんな事はないのだ。
心字池の西側には、境内地であるがこんな豪勢な造りの格式の高そうな料亭が建っている。「若福」という屋号だ。ここも天神裏花柳界の名残りかも知れない。
そのまま神社の裏手から神輿庫の脇を抜けて住宅地の側に出て行く事にする。亀戸天神裏の花柳界は殆ど姿を消したとはいえわずかに現役の料亭も残っているのだ。
神社の裏からはいきなり所帯染みた一軒家がずらりと並んでいる。傍から見るとただの住宅地だが、花街は確かにこの周辺にあったのだ。
境内を外れるとすっかり鄙びた下町の風情に戻り、道行く人の姿もまばら。そこは猫の楽園だった。