江戸から甲府を結ぶ甲州街道、現在では新宿からだいたい京王線沿線を並行して府中や八王子方面に抜けて山梨方面に続く国道20号の事を指す。その途中で通りがかる調布市の一角に奇妙な光景を見かけた。
国道20号と、深大寺や多摩川方面に抜ける都道12号が交わる下石原交番前交差点の角に古い都営住宅が建っている。かなり交通量の多い場所なので、ここを通り掛かる機会が多いならその存在に気づくだろう。しかしこの都営住宅、何か様子が変なのだ。
地図で調べると「都営下石原アパート」という名称になっている。6階建ての見たところ何の変哲も無さそうな都営住宅でしかないが、甲州街道に面した1階部分にずらりと店舗スペースが並んでいるのが特徴。2階から上が住居フロアだが、よく見ると3階から上は各戸2フロアの所謂メゾネットタイプになっている模様。
しかしその店舗部分を見るとすっかりもぬけの殻になってしまいシャッターが降りたままの店舗の残骸がズラーリ。その上DQNに落書きされてしまっていて何とも不穏な雰囲気でございますよ。
どうも2010年以前から店舗の立ち退きがじわじわ始まっていたようで、かれこれ5年以上はこの中途半端っぷりを晒しているみたいだ。古い航空写真で建築年代を確かめたが、昭和40(1965)年の時点で既にこの都営住宅はある。
まだ中央自動車道も開通する前で、ユーミンが歌う「中央フリーウェイ」よりもずっと前からこの団地があったという事になる。調布飛行場がまだ「調布基地」と呼ばれていた頃で、米軍住宅「関東村」がまだ現役だった頃だ。つまりどう考えても築50年オーバーの老朽化団地という事で間違いないようだ。
ぴっちりベニヤ板で塞がれた店舗の入口を眺めると、とある歯科医院の「移転予定」の看板が。道を挟んだすぐ向かいが移転先になってましたね。立ち退き時期はまちまちのようで、ここは2014年に移転の目処を付けたようだ。
しかしそんな場所で唯一立ち退き済みではない、とある美容室が一軒だけ店を開けているのだ。これは一体…もしかしてここが立ち退かなければ建て替え工事に着手できないという事情か。
既に二階から上の住居部分へ続く階段も封鎖されていて雑草や木がボーボーになってフェンスまで掛けられている所に「車でお金」の広告が。結構都営住宅にはこのような放置プレイをかまされた場所が少なからずあるのだが、割れ窓理論的にはマズくないですかね。
甲州街道側の住居部分共用廊下をこのへんの角度から眺めるとこの通り。排水用の雨樋が一列整然と並ぶ様子はなかなか圧巻である。
さらに裏手に回ると団地の周りの土地が荒れ放題になっている。雑草伸び放題なのに加えて家電の不法投棄なども目立っており不穏度数も急上昇。やはりこちら側も二階から上に続く階段の入口がベニヤ板で封鎖されている。
甲州街道に面した側が店舗になっている一階部分の裏手という事になる。さすがに築50年オーバー物件ともあって決まり事が緩いのか各戸ごと勝手にトタン板や小屋など建て増しして居住スペースを広げている様子が見られる。
立ち退き済の店舗の裏口も、玄関扉や電気・ガスの配線周り、粗末なトタンで造られた庇のオンボロ具合の凄まじさを見ると、まるで筑豊あたりの鉱山町にある公営住宅の廃墟にも近い迫力が感じられる。
もっぱら解体される時を待つしかないといった所の都営下石原アパートだが、相変わらず不法投棄だか以前の住人の置き土産だか分からん私物があれこれ捨てられている。
解体されるよりも先に建物全体が蔦や雑草に飲み込まれるのではないか。
唯一立ち退き済みではない某店舗の裏手。特にここだけ多くの私物や洗濯機、物干しスペースなんぞが残っていて「生活してます感」で溢れている。2020年東京五輪のメインスタジアム・新国立競技場の建設で解体予定の霞ヶ丘アパートなんかもそうだけど、半世紀も住民が暮らしているといくら都有地でも権利関係でゴタゴタしますわなぁ。
老朽化都営住宅に放置プレイをかます一方で新国立競技場には2500億円掛けて建てるけどいい?とかふざけた事を抜かすから話がおかしいし都政の金の流れもおかしいのだ。近所の味の素スタジアムでも使っとけよ…という事で、ラグビーの試合は新国立でやらず味スタでやる事に決めたそうです。
ちなみにこの準廃墟都営住宅の周囲には一回り新しめの「都営下石原第二アパート」というのが1~6号棟まで建っている。こちらは解体対象とはなっておらず住民もちゃんと暮らしている。甲州街道に面する1号棟の脇には給水塔がそびえている。
<追記>「都営下石原アパート」は2018年の時点で解体工事が着手され、現在は更地になっています。