商店街となっている菊坂通りを春日方面に降りて行くと街並みが一気に古くなる。
その道中で長泉寺という寺の山門が長い石段の向こうにそびえているのが見えるので、少しだけお邪魔することに。
菊坂通りから遠目に見ると、思わず立ち寄りたくなるような寺の山門だが、そのすぐ右側には風景に似つかわしくない新しいマンションが見えていて非常に残念。
石段を登って長泉寺の山門から菊坂通り方面を見るとなかなか開放的な光景が見られる。ここも東京山の手らしく急激な谷戸地形であることが分かるのだが、見渡す限りマンションだらけだ。
背後には後楽園遊園地もとい東京ドームシティアトラクションズの観覧車とジェットコースターが見える。
長泉寺自体は何の変哲もないごく普通のお寺なので割愛する。
しかし、長泉寺の石段のすぐ脇には窪地に押し込まれるかのように凄まじいオンボロ木造古民家が残っていて思わず息を呑む。
本郷界隈は東大があるからという理由で米軍の空爆対象から外れた為に戦災を免れた地域が多く、丘の上の築100年超の下宿「本郷館」をはじめ戦前の木造建築が当たり前のように残っている。
この付近は戦災を免れたというだけに路地の狭さも昔のままになっていて、人とすれ違うのもやっとという道幅の所も少なくない。
本郷台地の上の下宿街に続く数少ない道の一つ「梨木坂」。この坂を登ると明治時代からの老舗下宿屋の一つで旅館である鳳明館本館の立派な日本建築が現れる。
一方で反対側の低地には民家の隙間に隠れるように石畳が残っていたりして、街のあちこちに古い下町の痕跡が窺える。
行き止まりとなる路地も一つ一つ個性的で、いちいち中に入って確かめたくなってしまう。
古い街だというのもあって、昔から使われ続けているような井戸もそこら中にある。
路地の行き止まりには一本の樹を囲むように民家やマンションが立ち並んでいた。
本郷の路地裏は樋口一葉の存在でメジャーなので観光客も多く、思えばそこで生活をする住人にとってはいちいち生活空間に立ち入られてしまう訳で、それはそれで困るはずだが、だからと言って路地の入口に訪問者を拒むような立て札もない。
梨木坂の前まで降りてくると、もはや風景は完全に下町テイストである。台地の上が高級住宅街で低地にはオンボロ木造家屋だらけというのはいかにも文京区らしい特徴。
菊坂通りに沿ってまた一軒段違いに古い建物が残っているが、これは樋口一葉が金のやりくりに困って何度も質草を預けに来たと言われる「旧伊勢屋質店」の建物だ。
万延元(1860)年創業の質屋で、土蔵は明治20(1887)年に移築されたものが、店舗は明治40(1907)年築の建物がそのまんま残っているというのがこれまた凄いのだが、現在は普通の個人宅になっていて普段は内部を見る事ができない。
しかし樋口一葉の命日である毎年11月23日には「一葉忌」が行われ、旧伊勢屋質店の建物内部が特別公開されるそうだ。