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【現存せず】もはや伝説と化した、埼玉が世界に誇るダークサイド温泉「百穴温泉春奈」潜入記

元来、江戸時代までの日本の浴場の風習として「混浴」というものがあった。男女の別け隔てなくすっぽんぽんで風呂に入るという習慣を、幕末期に黒船に乗ってやってきたペリー提督が驚き「日本人は放蕩な人民である」として幕府に苦言を呈する、それがきっかけで欧米列強に見習うがごとく明治の時代になって本格的に混浴が禁じられた。

しかし、時代は過ぎ去り21世紀の日本においても、誰にも知られる事なくひっそりと続けられている混浴温泉の存在が全国にはまだまだ沢山残っている。だが東京近郊にエリアを絞るとその数は非常に限られる。

その一つが「海なし、温泉地なし、世界遺産なし」(埼玉「超」観光立県宣言)と県自身が自虐的に言ってしまうまで、一般的に温泉不毛の地と言われる埼玉県のど真ん中、吉見町の片隅に残っているのだ。

その名も「百穴温泉春奈」。あの有名な古代墳墓・吉見百穴のすぐそばにある。しかも温泉法で認められた埼玉県初の温泉施設(1968年)でもあるのだ。
広大でガラ空きな吉見百穴の駐車場にも、いつの時代に建てたんだよ!と思わせるような年代不明の案内看板が掲げられている。「ヂンギスカン・山菜料理」の文言もあるが、今ではやっていないようだ。

そんな百穴温泉をないがしろに「温泉地なし」と宣言してしまう埼玉県の開き直りっぷりも凄まじいものだが、何のことはない、温泉地は知られていないだけでこの場所に人知れず存在している。

しかしこの百穴温泉、噂によると普通の温泉施設とはかなり趣きが異なる事でごく一部のマニアには超有名な施設なのだ。埼玉県でも希少な混浴温泉である以上に、変態趣味の愛好家が密かに集まるとの噂が絶えない。

試しに「百穴温泉」で検索すると普通に温泉を楽しみにやってきたリア充ファミリーと思われる人のサイトなんぞが引っかかる訳だが、揃いも揃った酷評ぶりに笑ってしまう。そこまで聞いてしまうと一体どんな所なのだと、むしろ行きたい衝動にかられてしょうがないので、関越道東松山インターまでぶっ飛ばしてやってきましたよ。

吉見百穴入口側に流れる市野川の土手に沿って走る道路を北へしばらく進むと件の百穴温泉へ辿り着く。途中の土手は明かりもガードレールもなく車がすれ違えない程狭い。このアプローチの悪さも百穴温泉への期待感をいやがうえに盛り上げてくれる。

「百穴温泉」の古びたゲートが土手の道路入口に立ちはだかっているので現場に着けば嫌でも道のりが解る。平日だというのに結構な客の入りだ。土日だと駐車場が満杯になることも珍しくない。

この玄関口の雰囲気から漂う入りづらさといい建物の古び方といい、場末の温泉旅館というよりも「廃墟?」と思ってしまう程のクオリティである。しかし温泉施設に加えて旅館まであるので、一応は温泉旅館の体裁をしている。

表の看板を見ると「旅館部 百穴温泉」「センター部 春奈」の二つに分かれているようだ。センター部って何なんだよ、と思うが別に経営的にどうでもいいようだ。

駐車場の裏に回ると温泉施設の横側に道が続いている。開設して以来一度もリニューアルされていないだろう。そこにあるのは昭和そのまんまの風景。ちなみに隣はクレー射撃場となっている為、昼間に訪れるとパンパンと乾いた銃声があたり一面に轟いている。色々とカオスである。

百穴温泉の雰囲気を楽しみたいというのであれば、やはり客の入りが多い土日に来るべきと言うことで改めて出直してきた。玄関前の駐車場はほぼ満杯、熊谷ナンバーや所沢ナンバーなど県内もあれば、土浦だの宇都宮だの北関東の他県ナンバーも多い。

この外観の怪しさに加え土手沿いの道路といい、これなら「普通の客」がひょっこり立ち寄ろうという気にはとてもなれないだろう。その事が百穴温泉の特殊性をさらに高めている。

百穴温泉のエントランス。真冬でも玄関が開け放たれているのでしこたま寒い。フロントのカウンターには藻がびっしり生えたままで何を飼っているのかよくわからない水槽。さらにフロント横にはソファーもあるが照明が真っ暗だし座っている人間の姿もない。

ここで入浴料金1300円を支払い中へ入る…という手順になるはずだが経営者の姿はなく、代わりに温泉施設の経営者子孫と思われる子供の集団が絶えず廊下を走り回って遊んでいるという奇妙な風景が見られる。躾という概念は無いようで客が来ても何食わぬ顔で遊んでいて常に放牧状態。さぞかし立派な子に育ちそうだ。

しばらくすると奥の事務所らしき部屋から経営者と思しき奥さんが出てきた。「1人1300円です」と素っ気ない応対。日帰り風呂にしては高すぎる。最近値上げしたらしい(以前は1050円だった)

しかもこの値段で貸しタオルすら付いていないのだから普通の感覚であれば酷評されても致し方ないサービスの悪さだ。だがヘビーな百穴温泉フリークにとってはその程度の事は無問題なのである。

それから脱衣所に鍵の掛かるロッカーがないので貴重品は店主に預けなければならない。面倒である。入浴料金を支払った後に奥へ案内されるが、中に入っても廊下がやたら寒いしボロい。子供は相変わらず廊下を走り回って遊んでいるしどうなってるんだここは。

フロントから続く廊下の途中に宿泊者用客室のある2階への階段、その階段の前を左に折れ曲がると例の混浴風呂と大広間がある。噂で聞いた通りの変態趣味者が集うと言われる百穴温泉の実情は果たして…

変態趣味者が群れるという邪な噂を数々耳にした上で訪れたので戦々恐々の心境でいきなり本丸に乗り込んでしまった訳だが、これまで見てきたあらゆる光景の異様さに鳥肌が立つ思いだ。温泉に浸かって暖まりにやってきたはずなのに相変わらず廊下は寒いままだし、どうやらこの施設ではあらゆる常識を捨て去る必要があるようだ。

変態の噂は抜きにしても、とにかく水回りを中心に笑えるくらい汚いのである。もう何年も掃除してないであろう流し場が客の往来する廊下の前にあったり、これはもう百穴温泉でなければあり得ない風景だ。

ここは廃墟旅館ではない。現役の温泉施設の風景である。そこの廊下で走り回ってる子供にでも掃除手伝わせたらどうだと常識人の思考では思い至るだろうが、そんなこと考えても無駄なのである。言うなれば生ける妖怪屋敷。

あまりの水回りの汚さに他の場所も点検してみた。水垢がこびりついたままの流し台は経営者の無頓着さというよりも、利用者にとっては水回りが汚くともどうでもいいくらいの「何か」がこの温泉施設に在る事を物語っている。

さらにトイレは悲惨で真冬の時期にも関わらず凄まじい悪臭を放っていた。真っ黒に汚れがこびりついた手洗い場は明らかに掃除した形跡がない。

さらに大便器の周り。さすがに汚物がついている事は無かったが、トイレットペーパーの芯はそこらに転がっていたり補充されていなかったりとおおよそまともに管理されている状態ではない。

そんな妖怪屋敷の中をすり抜けると大広間手前を右に入った所に大浴場への入口がある。
大浴場入口前には大広間からちょうど人の行き来が見えるようにガラス窓が置かれている。そのガラス越しに、大広間でくつろいている客の姿が数人ほど見えた。全員男である。それも皆一様に舐めるような視線でこちらを見ているのだ。怪しい。怪しすぎる。まるで監視されているかのようだ。

大浴場へと繋がる脱衣所は一応男女に分かれているようで、手前が男、奥が女となっているが、肝心の大浴場が「混浴」となっている。暖簾の「女」の字もテープを切り貼りしただけのお粗末なもの。

中に客が居たため男子脱衣所と大浴場の様子を収める事は出来なかったが、実は男湯=大浴場となっているため、男湯に女が入ってくる形になっているのだ。っていうか殆どの客が男ばかり。脱衣所に加え異様な熱帯ジャングル状態の大浴場の中もやはり寒く、肝心の湯もぬるい為に全然身体が温まらない。

代わりに女子脱衣所と女湯の様子を当取材班の女子グループの協力で収めてもらうことにした。こっちは本当に誰も居ない。この時点で普通の温泉施設で考えると明らかに異様なのである。

女湯も一応あるにはあるが、家の風呂みたいなもので息苦しい程狭い。浴室の二辺の壁がガラス窓になっているが、男湯となる大浴場から透けて見えないようにすりガラス…ではなく、適当に白いスプレーを吹き付けて目隠しされてある。その様子もまた異様過ぎる。

脱衣所の前から女湯と混浴風呂への入口が二手に分かれている。もちろん混浴風呂の方のドアを開けるとその瞬間に風呂に浸かったまま侵入者をひたすら凝視し続ける怪しい男性客の集団にモロに視姦される羽目になる。知っている上でもかなりの覚悟が必要。

この男性客の多くは何らかの「ハプニング」を期待して何度も百穴温泉に足を運ぶ「ワニ」と呼ばれる常連客である。

ワニと呼ばれるのはその姿を見ても一目で解るだろう。狙われる対象は女性に限らず男性も油断出来ない。ガチホモのワニもいるからだ。何時間でも待機出来るようにとわざと湯温をぬるくしているのだろうか。

ともかくこのスペックの日帰り温泉で1300円と考えると高いだろうが、ハ◯バーだと思えば安上がりだと考える客によって支えられているようだ。全くとんでもない場所だ。

その他大広間では常連客と思われるオッサン連中の会話を聞く事が出来る。殆どがまるで顔馴染みの地元の村人のような振る舞いだ。彼らは事前に2ちゃんなどのネット掲示板で示し合わせて訪れる事も多く、そうした情報源に当たれば「ハプニング」に遭遇出来る確率も高いようだ。

皮肉にもネット社会の進化がこの昭和の残滓そのものな温泉宿を生き永らえさせているのかも知れない。日本では絶滅しかけている混浴文化を守る貴重な施設だ。これからも日本の変態パワーが健在である限り百穴温泉は存在し続けるだろう。

<追記>「百穴温泉春奈」は2014年初旬から休業してしまい、そのまま営業再開とはならなかったようで、関東屈指の異次元空間はその姿を消してしまいました。ご愁傷様です。

【付録】百穴温泉大解剖マップ
不安解消のための予行演習に、事前のイマジネーションにお役立て下さい。


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東京DEEP案内の管理人です。2008年の開設以来、首都圏一都三県の街歩き情報を淡々と記録し続けております。いわゆる日陰者的物件、観光地にもならない場所、ちょっとアレな地域を見物・考察する事を趣味としております。2017年6月15日、単行本「『東京DEEP案内』が選ぶ 首都圏住みたくない街」(駒草出版)を発売。
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