周囲を海に囲まれた島国・日本でも着々と進む社会の多国籍化を淡々と観察し続けている我々取材班。芝園団地やワラビスタンしかり、首都圏においても外国人だらけになった街を何ヶ所も見てきたわけだが、それでもまだ行き逃している場所があった。

今回やってきたのは千葉県八千代市に属する「村上」という地域である。千葉県民でもなければ、よそ者はまず来る事もない場所だろう。地下鉄東西線で西船橋から直結している千葉県の第三セクター路線「東葉高速鉄道」に延々と乗り続けて、終点の東葉勝田台の一つ手前にある駅だ。読者の皆様方、もう「どこそれ?」状態になってませんかね。
東葉高速鉄道が運賃高すぎでそもそも来る気になれない街

北総線と並んで「日本一運賃が高い」と槍玉に上がる東葉高速線。村上駅からは西船橋まで乗っても630円、日本橋までだと910円も取られてしまう。そりゃ道理で我々も今まで足が向かなかったわけだ。毎日遠距離通勤に励むサラリーマンな方々も定期代全額会社負担のホワイト会社にお勤めでもしなければ懐辛いところだ。それに浦安からならたった15分で大手町に行けるけど、ここだと45分は掛かる。(通勤ラッシュ時は1時間越えもあるらしい)

そもそも東葉高速鉄道はバブル崩壊前後に建設された路線で、土地収用のゴタゴタで建設費が無駄に莫大に跳ね上がっているため、それが今でも高額運賃に反映されている。じわじわ沿線住民が増えて利益もそれなりに上がっているようだが、全国の第三セクター鉄道の中でずば抜けて多い累積赤字を解消するまでは、途方も無い年月がかかりそうだ。

村上駅を降りると目の前にはぽつんと記念碑が建っているだけ。どうもこの駅が地元民の請願駅で当初建設予定になかったものが後出し的に駅が作られたらしい。東葉高速線が開通した1996年から駅があるが、土地区画整理事業の終了を祝うこの石碑の日付は「平成二十一年」、つまり2009年とあるので、駅周辺が発展しだしたのはここ十数年くらいの事だろう。ちなみに村上駅は同路線の途中駅で最も乗降客数が少ない。

村上駅周辺にはイトーヨーカドーとフルルガーデンなるショッピングモール、それからジョイフル本田といった商業施設はあるが、やはり特徴の無い郊外のニュータウンという印象しかない。イトーヨーカドー八千代店の中にある、なんだか客層が全体的にダウナー系でドヨーンとした雰囲気の漂うフードコートの中をチェックしてきましたが、ここはちゃんと「ポッポのあるイトーヨーカドー」ですよ、皆さん?
「村上団地」がどれだけ千葉のブラジルなのか見に行こう

で、今回の目的地である村上団地は駅の北側のジョイフル本田の裏手あたりの一帯に広がっている。駅徒歩7~8分くらいで団地の入口に辿り着くので、まあまあ通勤にも便利そうである。まず団地の手前に何の気なしに建っているビルに目が止まった。そこには連日紙面で電波お花畑な主張を繰り広げ多文化共生社会を推進する地球市民的・某左翼新聞紙の配達所が見られるわけだが…

このビルの二階にはのっけからポルトガル語で「Missão Shekinah Japão」と書かれキリスト教の十字架を掲げているのが見られる。ここは「Igreja Assembléia de Deus」という教会、少し調べてみるとアメリカに本拠のある世界最大のペンテコステ派教団「Assemblies of God」の系列で、本国ブラジルはカンピナグランデという都市を拠点に布教している宗教団体らしい。早速「千葉のブラジル」らしい風景が見られて期待感高まりますよね、ええ。

この村上団地は目の前を走る東葉高速線が開通するずっと前、昭和51(1976)年に完成し街開きしている、足掛け40年以上にもなる公団住宅(現在のUR賃貸住宅)である。昭和42(1967)年に市制施行した当時は4万人台しか居なかった八千代市が、この団地が完成する前後には人口が倍増し、10年足らずでたちまち10万人を突破している。

八千代市にはこの村上団地以外にも「住宅団地発祥の地」碑が建つ八千代台団地をはじめ、米本団地、高津団地、勝田台団地といった大規模団地が市内各所に点在している。高度経済成長期に団地をどんどん建てまくって成長してきた街である。

団地内には八千代市役所の村上支所といった公共施設も存在し、住民の便宜を図っている。そう言えば東葉高速線は後になってから出来たので、団地の街開き以来長らく当初の最寄り駅は京成線の勝田台駅で、そこからバスで来る必要があったのだ。その当時の状況は、まさしく「陸の孤島・八千代」と地元民が自虐をかますレベルだったんだろうな…

団地自体は築年数こそは古いと言えども、綺麗に整備が行き届いている印象で“荒れた感じ”は全くない。村上駅寄りの1街区にあるファミリー向けの広めの3LDKでも家賃は8万円台とかなりお安い。しかし東葉高速線の通勤定期券の運賃を見ると西船橋まででも3ヶ月分(75,240円)とどっこいどっこいだ。むしろこっちの方が高すぎるだろ…

現在も村上団地には約7,800人ほどが暮らしている。八千代市には工業団地が三ヶ所あり、そのうち一ヶ所の「上高野工業団地」が都合良くこの団地のすぐ東隣にある関係からか、入管法改正後の1990年以降、ブラジル・ペルー等の南米系出稼ぎ労働者が次々入居するようになった一方、街の高齢化で元々の日本人住民は減り続けているようだ。
寂れる一方の「村上中央商店街」にはブラジリアンなスーパーもあるが…

とりあえず、村上団地のど真ん中にある「村上中央商店街」の様子を見ることにする。団地の街開き当初から存在する、団地住民のための商店街だ。案の定高齢者が多いが、ブラジル人っぽい住民の姿はそれほど見かけられない。単に昼間は仕事中で居ないだけかも知れんが…

近所に便利な大型モールがあるせいかして、商店街はシャッターを下ろしたままのテナントがやたらと多く見かけられる。しょぼくれ気味半端ないわけですが、こういうのも「古い団地あるある」な展開でして。

空き店舗が多い代わりに、地域の高齢者の暮らしを支えるデイサービス系の店舗が増えてくるのも“あるある”ですね…ちなみに、こういうところによく出店している「催眠商法」的な健康食品店はありませんでした。もはや悪徳商法のターゲットとなる高齢者も少ないんですかね。

村上団地の商店街には以前はスーパー「リブレ京成」があったのだが、これが2015年に閉店。翌2016年には近隣の国道16号沿いにも「イズミヤ八千代店」(現在はメガドンキホーテになっている)があったものが閉店してしまい、一時期団地の高齢者が“買い物難民”となってしまう事態が起きた。それで今では商店街のリブレ京成跡地がセブンイレブンとドラッグストアに変わり、特養老人ホームの建設も進んでいた。

あとはグダっとした佇まいのババ服屋さんとか、のっけから店の玄関先に公明党ポスターを掲げる信心深いインディーズ系100円ショップなんかが揃っている。村上駅の先にあるヨーカドーまで足を運ぶのも辛いご老人でも、とりあえず何とかなりそうなレベルのラインナップだ。

しかし日本最強のブラジル団地との呼び名も高い、愛知県にある「保見団地」や「知立団地」なんかと見比べると、そこまでブラジリアンパワーを感じられないのも現実だ。2008年のリーマンショック以後、本国に帰国する出稼ぎ労働者が続出、一時期は800人を越えていた村上団地のブラジル人住民も今ではその半数以下となっているそうだ。それでも八千代市は千葉県内の自治体では最もブラジル人人口が多く、次点で市原市などが挙がる。

村上団地の商店街にある不動産屋、村上駅周辺の賃貸物件情報を店先に掲示しているので見てみるが、わざわざ「外国籍の方」と書いて出すくらいだし、外国人ウエルカムっぷりが激しい。ワンルームも家族向け物件も家賃がほとんど変わらないのが衝撃的だ…特に村上駅徒歩18分、村上団地2街区の47,000円で3DKという物件、駅から遠いぶん穴場感が容赦ない。夜逃げ先に如何でしょうか?

ブラジル・ペルー移民が今も多い事情から、この商店街には「八千代市多文化交流センター」といった施設がある。時々外国人住民向けに日本語教室を開催していたり、日・英・スペイン・ポルトガルの四カ国語が話せる職員が常駐しているらしいですよ。

そんな多文化交流センターのすぐ隣にある食料品店「モンテヤマザキ」。スーパー撤退後の村上団地住民には心強い店舗である一方、ここではブラジル食材も多数揃えて出稼ぎ移民の食生活をも支えている。店内奥のフードコートでブラジリアンなハンバーガーやパステウなんかが食えたりできる。

神奈川県愛川町、埼玉県本庄市、群馬県大泉町などなど、ガチブラジル地帯にある店はどこも本当に異国情緒漂っているが、ここはイカニモなブラジル国旗が掲げられているわけでもなく、一見普通の店構えである。とりあえずガラナ・アンタルチカでも飲むか…

商店街の脇にある「村上中央公園」を歩くと、そこにはブラジル人の子供が沢山遊んでいるのを見かけられた。母国から見て地球のほぼ裏側の土地で逞しく生きる新しい世代、自らのルーツはブラジルのまま、この先も日本社会に生きる事になるのだろう。もっとも最近はベトナム人とネパール人があまりに増えすぎてしまい、むしろブラジル人の存在感が薄くなっている感がある、この国の移民社会。