戦後日本屈指の極左過激派による「三里塚闘争」の古傷が今も疼いているのか、どうも成田空港の周辺はわけのわからない鉄道関連施設が多いような気がしてならない。誰が使っているのかよく分からない「芝山鉄道線」、1991年から旧空港駅をそのまま使っていて廃れ感半端ない地下駅「東成田駅」…しかしここ十年の間にももう一つ「わけのわからない鉄道駅」が増えていた。

それが千葉県成田市、成田ニュータウンの北端部に存在する「成田湯川駅」である。ここは2010年、それまで手前の印旛日本医大駅でどん詰まりとなっていた北総線を延長する形で成田空港方面に延伸した際、新たに設けられた唯一の鉄道駅である。てっきり北総鉄道の駅かと思いきや、「京成電鉄」の社名のついた駅名表示板が掲げられている。

そんな成田湯川駅が色々な意味で衝撃的だったので、当サイトでも是非紹介しておきたい。駅前に降り立っても歩いている通行人の姿はおろか、コンビニや食い物屋の一つもないのだ。一体こんなところに駅を建てて、京成電鉄は何がしたかったのだろうか、まるで見当もつかないのである。
成田空港線(成田スカイアクセス線)唯一の途中駅「成田湯川」。電車は40分に1本しか来ないぞ

成田湯川駅があるのはJR・京成線成田駅から北西に3キロほどの場所。ちょうどJR成田線(我孫子支線)が駅の裏側を掠めているが、恐らくJR側は利用者が見込めないとの理由で新駅を建設する計画もなく、下総松崎駅が当駅の北西1.5キロの位置にあるのみ。とりあえず駅の券売機も2つぶんだけあるけど、もう2つぶんのスペースがあるのは、将来の利用者増加を見越しての事なのだろうか?

成田湯川駅は京成電鉄の駅ではあるものの、京成本線とは異なる「京成成田空港線」、通称「成田スカイアクセス線」の一部であり、北総線の延長線上にある。したがって運賃体系も京成本線のそれとは微妙に異なり、成田空港方面は520円、隣の印旛日本医大まで460円と、隣の駅に行くだけでもかなり高額である。そして見ての通りだが、京成本線の成田駅から東京方面に行くには、一度空港第2ビル駅で乗り換えなければならない。

しかも成田湯川駅には「普通」電車というものは止まらない。全列車が「アクセス特急」なる種別の優等列車で、言わば“特急しか止まらない駅”なのである。さらに驚くべきはこのスカスカ過ぎる時刻表。東京方面、成田空港方面、どちら側からも40分に一本しか電車が来ないのである。電車をギリギリで逃してしまった時のダメージも他の駅の追随を許さないレベルだ。

念の為に成田湯川駅の終電時刻を確認してみよう。アクセス特急で直結している北総線や京成本線、都営浅草線や京急線は23時11分までOK、夜11時オーバーでもここから金沢文庫まで行けるらしい。しかし成田空港行きもしくは京成線の乗り換えで行ける成田、津田沼、千葉中央の各駅は22時39分。(取材を行った2018年当時のものです。現在はダイヤ改正で変わっている可能性があります)

一日の乗降客数は1,476人(2018年)、京成線内では大佐倉駅(秘境)と並ぶ少なさを誇る弱小駅に甘んじている割には、自動改札口には駅員がしっかり常駐している。早朝深夜が無人化するわけでもないようで、普通に有人駅のようだ。採算取れてんのかこれ?

ひとまずこの珍妙な駅でのひと時を堪能するために200円払って普通入場券を購入。京成線の数ある駅の中でもレア度ナンバーワンではなかろうか。成田市民でもなければ、ここはなかなか来られる場所ではない。

そして自動改札に入場券を通して構内に入るとこのご立派過ぎる設備に思わず呆然。平屋建ての掘っ立て小屋がポツンとそびえる“京成線最強の秘境駅”大佐倉駅レベルでも良いと個人的には思うのに、ここぞとばかりの過剰投資っぷりが極まっている。

相変わらず駅の構内もガラーンとしていて人っ気の欠片もないわけだが、成田湯川駅のミニチュア模型もしっかり展示されている。建設費はいくら掛かったのだろうか。もっとも成田スカイアクセス線自体、幻と消えた「成田新幹線」計画の代替で生まれたものだという事を考えれば、国策として多額の公金が投じられていたとしても不自然はないだろう。

そして成田湯川駅の誰も居ないめちゃくちゃ綺麗なプラットホームに上がる。ガッツリ二面四線の相対式ホームとなっていて、新型スカイライナーの車両が最高時速160キロの“剛速”で駆け抜けていく、『赤い彗星』の異名を持つ京急どころではない迫力ある通過風景が見られる駅だが、意外や意外、ここから成田空港方面はなんと「単線」なのね。ビックリ。

随分スッキリしすぎて色気もクソもない京成の駅名表示板。両隣の印旛日本医大までは8.4km、空港第2ビル駅までは9.7kmと隣駅までの距離も半端なく遠い。あくまで成田空港と東京都心を直結する新ルートとして生まれたこの路線、途中駅が増えれば増えるほど速達性に支障が出るはずなので、むしろこの駅は必要なかったのではないかと余所者の意見としては思わずにはいられない。もはやネタの為に存在しているようなものか。

駅のホームからは人口3万人を超えるという一大新興住宅街、成田ニュータウンも一望できる。これだけ沢山の人が暮らしているのに、この駅だけは全く人の姿がないのはやはり不自然過ぎる。とりあえず風景をボケーっと眺めながら、40分に一本しか来ない電車の到来を気長に待つ事にしよう。
成田スカイアクセス線と京成本線では料金が200円ぽっちしか変わらないので北総線住民が割を食ってる問題

さて、お目当ての「アクセス特急」とやらが成田湯川駅のホームに入線しましたですよ…って、オイ、これ京急の車両(600系)やないかい!成田空港からやってきたアクセス特急はでかいスーツケースを抱えた多くの外国人観光客を載せている。京成本線を通る特急電車だと成田空港駅から京成高砂駅まで1時間も掛かるが、アクセス特急だと40分そこそこ。時間短縮効果も高い。

成田スカイアクセス線には日暮里と成田空港を片道最短36分、最高時速160キロで爆走する「スカイライナー」と並んで、特急料金不要、成田空港から北総線内の途中駅にも止まりつつ、都営浅草線、京急線を経由して羽田空港までを繋ぐ「アクセス特急」が走っている。

ちなみにこの「アクセス特急」は京成電鉄の系統だが、北総線内を走っているにも関わらず、北総線の運賃の上乗せ額がそれほど反映されておらず、成田空港から上野まで京成本線で行くのと比べても料金は200円ほどしか違わない。
一見、今もなお莫大な建設費の償却に勤しむ「全国一運賃の高い私鉄」北総鉄道にとっては乗客の殆どが自社の駅を素通りするだけのアクセス特急を走らせれば走らせるほど損になる仕組みのようだが、実のところ北総鉄道は京成電鉄が50%以上の株を保有する連結子会社で、さらに北総線内の一部区間は線路保有会社が別にもなっているので、料金体系や利益分配の仕組みが非常にヤヤコシイのだ。

毎日バカ高い運賃をブーブー言いながら払って一部は裁判を起こしてまで北総線に乗って通勤通学している住民が「成田スカイアクセス線」の別体系の運賃に対しても怒っているのを見かけるが、確かにそのへんの不公平感は無くもない。「高い運賃を払うのが嫌ならよそへ引っ越せ」と言わんばかりである。

再び改札の外に出る。駅の高架下には無駄に開放的な空間があり、これが普通の駅前ならスーパーとかカフェとかパチ屋とか、ちょっとした商業施設なんかが入ることになるんだろうが、誰も使わない駅だし、駅のすぐ裏手は山だし…

この用途不明の「砂場」も何のためにこしらえたのか意味不明過ぎて、一般常識を超越しまくっている。ここまで徹底されてしまえば、我々としては成田湯川駅に「やたらと豪華すぎる秘境駅」の称号を授けたい。
目の前の使えない新駅よりも使い慣れた路線バスで成田駅に行くニュータウン住民

そもそもこの成田湯川駅、本来は駅のすぐ南側に広がる「成田ニュータウン」住民の利用を想定していたそうだが、多分当の住民は殆ど使っていない。たまーに、電車到着前を狙って車で送迎されてやってくる乗客が1,2名いればいい方である。駅開業以前、ここには京成グループの千葉交通成田営業所・湯川車庫があったものが、その車庫をわざわざ移転させて成田湯川駅を建設したというのだ。

で、今も路線バスの待機所になっている成田湯川駅前の一角。ニュータウン住民は目の前の全然使えない新駅には目もくれず、使い慣れたこの路線バスで成田駅に行くのが今も主要なルートとなっているらしい。これではますます、何の為の新駅なのか分かりませんぜ。

しこたま「何もない」と言われる成田湯川駅前だが、駅からちょっと離れたところにローソンが一軒あるのと、松崎街道を登ったところにある産直野菜も売ってる弁当屋「湯川けろけろ村」といった店舗もあるので、「何もない」と言い切るには語弊がある…いや、そんな事ない、やっぱり何もないぞこの駅は。