人口1360万人が暮らす東京都には沢山の鉄道駅があり、多くの人々が行き交う…という普遍的な大都会のイメージがつい持たれがちなのだが、そのイメージがさっぱり通用しない「あり得ないくらい人が居ない駅」というのも23区内には幾つもある。全ての鉄道路線で見れば、豊洲新市場が出来る予定のゆりかもめ「市場前駅」だったり、東武伊勢崎線「堀切駅」なんかも当てはまるが、JR沿線に限れば指折りのうちに入る駅の一つを今回訪れた。
それがJR宇都宮・高崎線の「尾久駅」。恐らく都民の半分くらいはこんな駅が都区内のJR沿線にあろうとは存在自体知らないのではないだろうか。しかも上野と赤羽というメジャータウンの間にある駅だが、宇都宮線(東北本線)自体が京浜東北線が走るエリアとは異なる為、京浜東北線ユーザーにもその存在を忘れ去られる程の勢いだ。駅の開業も昭和4(1929)年と古い駅なんですがね。
衝撃の事実!尾久駅は早朝時間帯「無人駅」となる
先に申し上げた通り、尾久駅は宇都宮・高崎線の駅である。その為、当駅に来る為には上野か赤羽で乗り換えるなどして宇都宮・高崎線、及び上野東京ラインの車両に乗らなければならない。しかも2015年3月から「駅遠隔操作システム」が導入されて以来、始発から朝7時までと午後8時半から9時半頃まで、駅員が不在化しているらしい。時間限定とは言え、上野のすぐ隣、都心に近接した駅が無人駅と化すとはどういう事なのだろう。
尾久駅の1日平均乗車人員は8124人(2014年度)で、これは都区内のJR駅では京葉線越中島駅、京浜東北線上中里駅に次いで3番目に少ない。2015年3月14日に開業した上野東京ラインで東海道線方面への直通電車が増えた為か若干利用者数が増えたようだが、それでも駅前はとても賑わっているとは言えない。まるで北関東のどこかの地方駅のようである。
グーグル先生も認める「尾久駅 いらない」
その駅前の激寂れ感もさることながら、「尾久駅」でグーグル検索を行うと検索候補に「尾久駅 いらない」と表示されてしまう程に存在意義を疑われている、それがこの尾久駅なのである。徒歩圏内には都電荒川線の荒川遊園地前駅、京浜東北線上中里駅などもあるにはあるが、上中里方面は広大な操車場や線路が阻んでおり生活圏を見事に分断しているのだ。
尾久駅周辺にあるチェーン系飲食店はせいぜいマクドナルドくらいで、どこの駅前にも出店する事で知られるさいたまの中華料理チェーン「日高屋」すら存在しない。あとは鄙びた佇まいの居酒屋くらいで、スーパーマーケットもかつて有力な存在だった「キンカ堂尾久店」も会社倒産の折に潰れてしまい(2008年1月)、住民の普段の買い物には駅から少し離れたオリンピックや東武ストアに行く事になる。
駅名は荒川区の尾久だが駅の所在地は北区
尾久駅の駅名は荒川区の尾久から来ているが、所在地は「北区昭和町」となっている故、駅前の駐輪場に付属する施設が「北区尾久駅前観光PRコーナー」だったりするんですが、観光地臭ゼロでどこかやる気の無さを感じる。そもそも北区自体23区内で最も「実はどこにあるか分からない区」扱いだもんな。
かつて温泉街や花街(尾久三業地)として栄えた遊興地だった尾久と言ったら、やっぱり阿部定事件ですよねえ。それにしても、観光PRコーナーの建物の上に、夜行寝台特急北斗星らしきものが乗ってますよ。観光客というよりも尾久車両センターに見物にやってくる鉄ヲタの方が多い土地柄です。
人っ気も少ない尾久駅前でやたらと目立つ公衆便所。尾久なので、駅のデザインも「OKU」にしてみました、という訳か。しかし本来は荒川区尾久(西尾久・東尾久)の読みは「おぐ」、なのに駅名が「おく」なのは、駅開業時に当時の国鉄(鉄道省)が「おぐ」の読みは訛っているからだと勝手に判断してそう決まったらしい。昔から東北にルーツを持つ人々が多く住む沿線ならではの事情か。
駅前の明治通りを渡るとその先がすぐ荒川区西尾久となっております。都電荒川線の荒川遊園地前駅も徒歩10分もかからぬ近さにある。住民の多くは都電荒川線が使い慣れているようで、そっちの方が人通りも多いのだ。
上中里方面へはタイムカプセル平成ロードを通りましょう
しかし気になるのが、尾久駅前から続く下り階段の先に伸びる地下通路の存在。駅のホームからも鉄ヲタの大好物である鉄道車両の数々が見られる「尾久車両センター」もこちらを経由して行くようですよ。そして線路を隔てた向こう側の上中里方面に行く時もここを使う羽目になる。
地下通路は「タイムカプセル平成ロード」というクソダサいネーミングが付けられていて、どこがタイムカプセルで平成っぽいのかよく分からんのですが地元の垢抜けない爺さんが思いつきそうな名前ですね。看板がどこぞのDQNに派手にぶっ壊されているあたりがヤンキーが粋がる下町・北区って感じがしてますよ。
階段を降りて地下通路へ。一応この地下通路は正式名称を「尾久構内架道橋」と言うらしく、そう言うからには駅構内扱いになるのか。150メートル程幅の広い殺風景な歩道が連なっておりますが夜中や早朝に一人で通り抜けるにはやはり物騒な感じがする。昼間でもさっぱり人通りが少ないし、本当に都内なのかここ…
やたらと古めかしい感じがする壁に直書きされた「はり紙禁止」の注意書きもタイムカプセル感を誘う。平成ロードというより昭和ロードの方が正しいのではなかろうか…でも、尾久駅の目の前が「明治通り」で町名が「昭和町」なら、地下道の名前くらい「平成」にしときたかったのかも知れん。
ところで、「大正」はどこにあるのだ?と思ったら、近所に「大正ハウジング」という不動産屋があるそうですよ…
あまり詳しく案内している感じもしない「尾久駅周辺案内図」の看板。場所柄だけに鉄分の濃さを感じさせてくれる。京浜東北線上中里駅はここを経由して徒歩15分足らずで行ける。この上中里駅もJRの都区内駅で2番目に乗降客数が少ない激寂れ駅。
全長約150メートルの「タイムカプセル平成ロード」のどこにタイムカプセルが埋まっているのかよくわからないまま出口へ。この先は東北本線の線路に両側を囲まれた「陸の孤島」呼ばわりされている都内屈指の寂寥感が漂う街「上中里二丁目」になります。