去年の国勢調査の結果で、埼玉県の人口は過去最高の726万人(2016年)に増加したというのだが、首都圏一極集中の流れで家賃の高い東京に収まりきれない人種が隣の埼玉にもどんどん流れ込んでいる構図が改めて浮き彫りとなっている。やはり人口増加が激しいのがさいたま市、川口市、戸田市など、軒並み東京に近い自治体名ばかりが挙がっている。
一方で、同じ東京のベッドタウンなはずなのに人口が6千人以上減少している街が存在している。「西武王国」所沢市だ。あくまで国勢調査の結果だが、所沢市の人口は前回(2010年)と比べて6049人減で県内ワースト1の人口減少自治体となってしまっている。それは何故なのか、なんとなく気になってやってきたのは西武新宿線の「新所沢駅」。地元民の通称は「しんとこ」。
相変わらず某巨大ネット掲示板上では「至高の住宅地」コピペでお馴染みの街、所沢。しかしこの駅は所沢駅から西武新宿線でさらに2駅先にあり、池袋方面から来る場合は必ず所沢駅で乗り換える事になるし、山手線と地下鉄東西線に乗り換え可能な高田馬場駅まで急行電車を使って40分。確かにJRと比べると不便なのかも知れん。湘南新宿ラインなり埼京線だと新宿から30~40分で大宮まで余裕で行けてしまう。
だが新所沢発の始発電車がある為か利用者は多く、駅前は思った以上に発展している。
「翔んで埼玉祭」開催中だった新所沢パルコ
そして駅西口には昭和58(1983)年にオープンしたという結構な年代物の「新所沢パルコ」の建物も立派にそびえている。別に所沢駅や新宿まで出なくとも商業施設はそれなりに揃っている訳だ。伊達に「至高の住宅地」と呼ばれている訳じゃないんですね、はい。
パルコもまたかつての西武堤王国・セゾングループの一員にあったファッションビルだが、渋谷でもお馴染みのシャレオツ路線の店舗がよもや新所沢にあろうとは。パルコ初の郊外型店舗らしいですよ。これがあるお陰で新所沢の地位向上が今まで成り立ってきたのだろう。意識高い人達が大好きな溜まり場、スターバックスコーヒーの店舗もありますしね。
そんな新所沢パルコで魔夜峰央「翔んで埼玉祭」が絶賛開催中でした。そう言えばこの御方、所沢に住んでいた時にこの漫画を勢いだけで描かれたそうで、マツコ・デラックスにテレビで「埼玉県民が東京都民に虐げられる酷い漫画」だと紹介されたお陰で再ブレイクしましたね。最近なんでも「マツコの影響」だもんな、本当にもう。
新所沢パルコ内の書店前で誰得状態の「翔んで埼玉」記念撮影コーナーもあり。未だかつてこれほどまでにショボい聖地巡礼コーナーがあっただろうか。記念撮影用に用意されてるのがただのパイプ椅子だし…
「埼玉なんて言ってるだけで口が埼玉になるわ!」「サイタマラリヤだ!」「埼玉狩りだー!」自虐的セリフてんこもりのフキダシを片手に記念撮影が楽しめます。本当に誰得なのだこのコーナー。
ぎょうざの満洲の本店もある新所沢駅東口
新所沢パルコもあって新興ベッドタウンの趣きが強い西口とは真逆に、東口に出るとこちらは旧時代感満載な趣きのある雑居ビルに囲まれた野暮ったい佇まいの駅前ロータリーとなっている。西武新宿線に乗るとこの駅から先はだだっ広い狭山茶の茶畑が広がる農村地帯に一変する。
新所沢東口駅前商店会の古めかしい看板にも飛行機のイラストが。旧所沢陸軍飛行場の前にあった「所沢御幸町駅」が新所沢駅の前身で、戦後に在日米軍の兵器補給廠への貨物輸送の都合上、昭和26(1951)年にほぼ当駅と同じ場所に「北所沢駅」の名称で移転開業、後の昭和34(1959)年に今の駅名に改められて現在に至る。
東口にはこれまた野暮ったい佇まいの商店街が開けている。パティオ通りにパイン通りですか。浦和や大宮の商店街に行くと同じさいたま市なのに別のサッカーチームを応援する垂れ幕が掛かってますが、所沢はサッカーじゃなくて野球なんです。埼玉西武ライオンズを応援しているのです。
しかし何の気なしに突然このようなオンボロ極まる酒場ゾーンが現れるのが油断ならない新所沢駅東口パティオ通り。「ジューウタン スナック」とは何なのでしょう。絨毯を敷いたスナックという事でしょうか。それってそのまんまでしたね。
そんな謎めいたジューウタンスナックひろみの壁には昭和感漂うフォントで「唄い放題 カラオケ¥1000」と書かれた看板。場末感がたまりません。
建物脇の路地に、まるで冬眠中の虫の如く寄り添う3つの店舗の玄関口。スナックひろみ、中華料理十八番、もつ煮「もつや」。地元のオッサンの為のローカルな溜まり場なのだろう。一番奥の「もつや」は秋津駅前にある店舗と同系列か。
その他、見た目には栄えているのかいないのか微妙な雰囲気のパティオ通りには謎めいた占いの館なんぞがあって、開けてみませんか?開運の箱、とか言いながらそれが「パンドラの箱」だったりするのでやはり油断ならない。
そんなパティオ通りの奥に一際立派な店構えで営業中の「ぎょうざの満洲 新所沢東口本店」。日高屋と勢力を二分する埼玉県民が愛するチープなローカル中華チェーン、ぎょうざの満洲の本店がこの店舗なのである。工場は坂戸市にありますけども、創業の地はここ新所沢。
本店と言っても店舗自体は別に他のぎょうざの満洲の店舗と変わらない訳でして別に珍しくもなんとも思わないんですが、本家本元ぎょうざの満洲のホームページ(開くだけでぎょうざの満洲オリジナルソングが演奏される仕様。注意。ちなみにホームページビルダー16使用)によると、新所沢駅近くの所沢市緑町四丁目にあった「中華料理満洲里」がぎょうざの満洲の始祖とされている。
しかしこの「ぎょうざの満洲本店」、一階にある店舗に加えて二階と三階がそれぞれ貸し教室に貸しギャラリー(ギャラリーマンシュウ)になっている。これは本店ならではのサービスだろう。
そう言えば以前はこのビルの左隣でぎょうざの満洲が経営する武蔵野うどんの店舗(うどん処 梅吉)もあったが、現在は廃業してしまっており、代わりにぎょうざの満洲本店別館として予約制のパーティールームに使われている。埼玉にはよくある肉汁うどんにきのこ汁うどんの店、他にも一杯旨いライバル店がありますから、敢えてそこで勝負掛けるのも無謀と判断したんでしょうか。
ぎょうざの満洲本店別館パーティールーム限定の団体様向けコースメニューもあり。飲み放題付3300円の「ランちゃんコース」はお値打ち感アリ。新所沢民はぎょうざの満洲で結婚式の二次会とかフツーにやってるんでしょうか。
パティオ通りの終端部はなかなかの廃テンションぶりを見せていてアレなんですが、関西うどん・定食の店の残骸が気になります。新所沢は戦後からある駅だし早くに発展してきたので、商店街の建物もあちこちボロさが目立つ。
商店街のアーチ看板に掲げられた、まるで学園祭の出し物で即興で作ったかのようなプロペラ機のキャラクターがいて脱力感を誘うパティオ通り。わざわざ他所から来るような街ではないかも知れんが、近くを寄られた際は少しぶらぶらしてみては如何でしょう、新所沢。