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大井町「八幡屋」 東京ラーメン遺産

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品川区はDEEPエリアが多いぜ!と噂には聞いていたが、何気に素通りばかりしていたせいで当サイトのエントリーに「品川区」が一つもない事に今更気がついた。実にもったいない。
とある方からのタレコミで、大井町に凄いラーメン屋があると聞いた。
東京でラーメンと言えば「二郎」のような油ギトギトで太麺で、同じように脂ぎった男どもがむさ苦しく行列を組んでいる風景か、「大勝軒」に代表されるようなつけ麺の店か、それともマスメディア主導のラーメンブームとかで、やたらテレビ出演履歴を自慢したり、素材のこだわりをアピールしまくって一杯千円とかいうふざけた価格設定のぼったくりラーメン屋くらいしか想像できない。
私もいささかマスメディアに汚染された「東京のラーメン」というものに少し諦めのような感情を抱いていたのかも知れない。
だがこれから行く店は、マスメディアのせいで陳腐化した東京ラーメン文化とは一線を画し、昭和の終戦直後の時代から頑なに暖簾を守り続ける、ガチの「東京ラーメン」が食べられる店だ。
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それは京浜東北線で品川からひと駅の「大井町」にある。りんかい線と東急大井町線も乗り入れる、品川区の中心街だ。
大井町駅の西口を降りると、再開発とやらで大きなホテルが建っていたり空き地になっていたりと随分物悲しい風景が広がっていた。心なしか道行く人も少ない。大ターミナル品川駅にも隣接しているのに、ちょっと微妙な駅前だ。


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大井町駅西口を南へ歩き、三ッ又商店街の前まで来ると踏切があり、ここから駅の東西を往来できる。その先は京急鮫洲駅方面に続く。大井競馬場などもあってこれまたDEEPそう。海沿いの街道を散歩するのも非常に面白いがそれはまた次の機会にでも。
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「みつまたの時計台」から始まる三ッ又商店街を歩く。綺麗に整備されてはいるが拍子抜けするほどシャッター通りだ。一方ではまだ新築ホヤホヤであろう大型マンションも建っている。
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潰れたまま放置されている店も少なくない。微妙な空気を漂わせる界隈だ。交通便もいいはずなのに。
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三ッ又商店街の出口には「大井三ッ又交差点」と、三ッ又地蔵というお地蔵様がおられます。地元民には、病気や災害などの「身代わり地蔵」として信仰されているという。三ッ又と書かれているわりには五つ又な交差点なのだが。
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三ッ又交差点から先は池上通りと呼ばれている商店街をさらに進む。このへんもやたらシャッター通りと化していて微妙だ。昔はもっと栄えていたような痕跡はあるが。
これから向かうラーメン屋は、左手のローソンの少し先の角を左へ曲がった先にある。
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古い住宅街の中、「見とおし悪し」と書かれた黄色い看板のその先に…
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巨大な手書きの「中華そば」の看板がシュールで年季を感じさせる、角の小さなラーメン屋。あれが「八幡屋(やわたや)」である。
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入口から店内が丸見えになっているがとても狭い。カウンター7席しかない店の中に入ろうとするが、扉の前には既に先客がいたので、わざわざ反対側に扉を開けて、開いている席に座った。
小さな店の中では常連客の爺さんと婆さんがビール片手にくっちゃべっている。ちょっとした居酒屋のようでもあり、老人憩いの家といった感じだ。
店内に「耳が遠いのでご容赦願います」と書かれているので、大声でラーメンを注文してみた。
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店主のおばちゃんは年齢を聞くともう90歳近いのだという。しかしとてもそんな年齢を感じさせない。なにせ店はこのおばちゃん一人で切り盛りしている。
ラーメンを作っている間も常連客の爺さん婆さんと世間話を何気なく繰り広げるが、よく話を聞いていたら常連客もみんな70歳とか80歳とかだ。どこの長寿村やねん!と突っ込みたくなるが、老人ホームにひきこもるよりも、冷たい親族に囲まれるよりも、粋な社交場が一つあるだけでも人間にとっては長生きの秘訣になるものだとしんみり。
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そしてやってきたラーメンは醤油と鶏がらのだしが利いた素朴な味。普通のラーメンだが、何が「普通のラーメン」なのかを真剣に考えさせてくれる深い味わいだ。
控えめにチャーシューが2枚と、なると、それに海苔と葱とメンマがトッピングされたオーソドックスな「東京ラーメン」。これが1杯400円!庶民価格!しかしタンメンが800円、チャーシューメンが800円と途端に倍額になってしまうのが謎。
おばちゃんに店の歴史をそれとなく聞いてみると常連客のオヤジさんが口を挟んできた。
なんと昭和31年からこの場所で営業を続けているのだとか。
それ以前も立会川で店をやっていたそうだが、火事で焼け出されたのがきっかけで今の場所に移ってきたという。何よりもこのオヤジさん自身、その頃からの常連なのだ。
まさに一杯のラーメンを通じて街に住む人々の人生を紡いできた、遺産のような店だった。
戦後の貧しかった時代から、ラーメンは庶民の食い物なのだ。八幡屋の女将は通算で65年間、頑なにこの地で純朴な東京ラーメンの味を守り続けている。それも地元の下町に住む人々だけに知られる、隠れ家のように今も佇んでいる。
「八幡屋」は月曜日定休、営業時間は11:30~15:00、17:00~23:00。


<追記>食べログの情報によると現在休業中らしいです。

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東京DEEP案内の管理人です。2008年の開設以来、首都圏一都三県の街歩き情報を淡々と記録し続けております。いわゆる日陰者的物件、観光地にもならない場所、ちょっとアレな地域を見物・考察する事を趣味としております。2017年6月15日、単行本「『東京DEEP案内』が選ぶ 首都圏住みたくない街」(駒草出版)を発売。
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