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蕨が生んだスター・星野源が愛した埼玉ローカルコスパ最強イタ飯屋「るーぱん蕨西口店」で炭水化物を過剰摂取する

正直、埼玉県民の「炭水化物好き」は他の追随を許さないレベルであると個人的には思っている。見栄よりも中身を重視し、ダサイタマと後ろ指を差されようが実直に生きる彼らの食文化を見れば、お安く胃袋を満たせる“うどん”に“パスタ”…ドカチン御用達の山田うどんを筆頭に、県内屈指の高級志向タウンである文教都市浦和の住民まで、蓋を開ければ「パスタ消費量日本一」(さいたま市)という実情である。

で、今回やってきたのは、そんな浦和の隣町、埼玉県蕨市の蕨駅西口に程近い一角にある「るーぱん蕨西口店」。埼玉県内各地に展開するローカルチェーン店だ。この店を挙げると、普段から東京都民のふりをして都心に勤めて暮らすネイティブ埼玉県民の中には普段からひた隠しにしている“郷土愛”が疼いでしょうがなくなる人間もいるとかいないとか。ともかく「埼玉でパスタ」と言えば“るーぱん”なのである。何、馬車道だと?異論は認めない。

るーぱんは昭和47(1972)年に熊谷市で第一号店がオープン、創業者の小島文雄という人物が“日本初のピザハウス”として知られる東京・六本木の「ニコラス」(2018年閉店)で修行を積んだ後に開業したという“ピッツァ&パスタ”レストランである。一時期は埼玉県外にも進出し、最大36店舗を展開するほどの勢いを見せていたが、バブル崩壊後から現在までじわじわと店舗数が減少しており、2019年2月現在ではこの蕨西口店を含めて埼玉県内の7店舗しかない。

さて、この「るーぱん蕨西口店」、元々はこんな古臭さ全開の外観で、見た感じでは昭和の時代からずっとそのままの佇まいで営業しているテンションすら感じさせる。数年前にファサード部分が一新され今の外観になっているのだが、洗練されたイマドキなシャレオツイタリアンが県内各所に増えてロードサイド店舗が続々撤退を余儀なくされる中、唯一非ロードサイド店舗で今の今まで生き長らえているのが、この蕨西口店なのである。

埼玉県民のソウルフードたる“コスパ最強イタ飯屋”

そんなるーぱんの特徴と言えば、この洗練された感じの微塵もない、手頃な価格設定で炭水化物感全開のメニューの数々。いま中年期を生きるオッサンオバハン連中にとってバブル期に流行った「アッシー・メッシー」と並んで「イタ飯」という言葉(死語)が独り歩きする前の昔懐かしの世界観を思い浮かべる事必至である。

そしてメニューのネーミングまでいちいちズッコケそうになる超絶センスっぷり。「まいうピザ ドリーム」1100円…石ちゃんのサイン色紙が店内に貼り付けてある店ならよく見るが、メニューの名前にそんなのを付ける例はあまり聞いたことがない。ツナ・マッシュルーム・コーンが乗ったピザのLサイズをるーぱんではそう呼ぶ。

さらにるーぱんが特徴的なのが、一部のピザやパスタが曜日によって大幅値下げになること。毎週火曜日は“トマトの日”だそうで、普段は二つ頼むと890円するボンゴレ(赤)とマカロニラザーニャが火曜日だけセットで690円だったり…

祝日除く毎週金曜日には「ピザ半額デー」を大々的にアピールし、コスパ重視で財布の紐がめっぽう固い蕨のビンボー住民の注目を集めている。ただでさえ蕨駅周辺の食い物屋はやたらとお安い店が多いので、このくらいやらないと客も来ないのだろう。なんせ老舗の鰻屋が肝心の鰻を焼かずに蒲焼のタレを掛けた豚丼ばかり出して繁盛しているような街だもの。お察し下さい。

そしてるーぱんが変わっているのは、注文は全てカウンターで事前精算の上行うという「ファーストフード店」スタイルである事。これによって人件費を抑えることに成功している上、食い逃げの抑止にも繋がっているという事か。つまり、るーぱん蕨西口店にはウエイトレスの姿はない。そもそもここはサービスを求める店ではないのだ。ドリンクも全てセルフサービスである。

カウンターにて注文後は、開業当初から内装そのままのログハウス風の店内にある好きな席に陣取って、パスタにピザが来るのをひたすら待つだけになるのだが、さほど混んでもいないのに食器が片付けられず放置されたままのテーブルが目立つ件。そりゃ店員も少なければ片付けるのも時間が掛かるだろう。それをいちいち気にしては蕨で「イタ飯」は食えないのである。

つい「トマトの日」の張り紙につられてしまい貧乏根性をこじらせて注文した「みそペスカトーレスパゲティ」のプレーンカットピザ付き、460円也。これは安い。しかし具材のミックスシーフードはメニュー表の写真に出ていたものより明らかに量が少ないし、市販の冷凍物っぽい代物である。価格相応と言っておこう。

ついでに同行者が注文した、るーぱんの定番メニュー「ボンゴレ(赤)」とバターライスのセット(サラダ・スープ・フリードリンク付、通常670円)も、汁気の多いトマトソース系のパスタの上にちょこんと申し訳無さそうに乗ったわかめも貧弱さに華を添えている。どうもパスタが減ったらバターライスを投入して“イタリア風おじや”にして食えという事らしい。このセットが「埼玉県民のソウルフード」としてテレビでも幾度と無く紹介されている一品、というのだ。

確かにここで何を食っても、特別どれが美味いとも思わない。でも、確実に腹は膨れる。日高屋といい山田うどんといい、埼玉のチェーン店で飯を食うと大抵はその類の感想を言うに至る。埼玉人をいくら悪く言う事はできても、逆に敢えて良く言えるとするならば「こだわりがないから、“満足”のしきい値が低い、コスパのいい人生を送ってるよね」という事に尽きるのだ。あ、あとこのピザもボンゴレのトマトソースに浸して食うといいらしいぞ。店舗推奨の食べ方だ。

グーグル先生にも「まずい」と非情なネガティブワードを返されてしまうような店だけれども、「るーぱん」はこれでいいのだ。不満なら浦和に出てクソ高い本格イタリアンでも食ってろという話なのである。 ちなみに店舗開店の10時半から夕方4時まではさらに割安なランチメニューもある。普通、標準的な外食店舗でこの価格帯だと単品で出てきても安く感じるものなのに、サラダもスープもフリードリンク、サイドメニューも一品オーダーできるとは。これじゃ「サイゼリヤ」も太刀打ちできませんぜ。

そして店内の求人ポスターまで古臭いまんまである。ここは90年代で時が止まってしまったのか。で、こんな「ダサイタマ100%」な、よそ者は誰も見向きもしないローカルチェーン店が最近、ある人物の存在によって急にテレビ番組とかで持ち上げられまくっている。

蕨のスター・星野源が食ってた「るーぱん蕨西口店」

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それがここ蕨市出身で、NHKの朝ドラや紅白歌合戦への出演に加えTBSドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」をきっかけに大ブレイク、現在も歌手に俳優に大活躍しまくっている「星野源」である。どうも実家がこの近くにあるらしく、本人がまだ学生だった無名の時代に「るーぱん蕨西口店」でよく食っていた事がテレビで紹介されるや、本人のコンサートが埼玉であった日には星野源ファンが店の前に大行列を成し「るーぱん入店5時間待ち」というまさかの珍事を起こす事態となった。

そんなるーぱん蕨西口店から歩いて数分もしない場所に、星野源の実の両親が営んでいたジャズ喫茶「Signal」の店舗もあった。しかし「逃げ恥」の放映期間中の2016年10月に突如閉店。あまりに星野源ファンが押し寄せるようになり、まともに営業することができなくなった結果だという。店舗跡は今も空きテナントのまんま。

拙著「首都圏住みたくない街」の上位に選んだ、有象無象の流れ者がお安い家賃につられて辿り着く埼玉の小さなビンボータウン・蕨の街からの思わぬ大出世である。


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東京DEEP案内の管理人です。2008年の開設以来、首都圏一都三県の街歩き情報を淡々と記録し続けております。いわゆる日陰者的物件、観光地にもならない場所、ちょっとアレな地域を見物・考察する事を趣味としております。2017年6月15日、単行本「『東京DEEP案内』が選ぶ 首都圏住みたくない街」(駒草出版)を発売。
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