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ネットカフェ難民と共産党市政と外国人の街!全国最小の市「蕨市」を歩く(2009年)

上野からJR京浜東北線に乗っておよそ20分。ピンクタウン「西川口」とギャンブル路線武蔵野線の乗換駅「南浦和」を両隣に控える「蕨」。

蕨駅を抱える埼玉県蕨市、古くは中山道蕨宿が置かれた宿場町、戦後は成人式発祥の地として知られ、全国で最も面積が最小の市でありながら人口7万人が暮らしており、人口密度は東京23区に次ぐ規模と言われている。

それも京浜東北線で都心から30分以内という地の利があるからこその発展ぶりなのだが、最近は「カルデロン一家問題」に代表されるように外国人労働者の問題が顕著で右翼団体も押しかけたり、駅前には全国唯一ネットカフェに住民票が置ける画期的貧民用シェルターが出来たり、不良少年がガスパン遊びで死んだりと色々アツくなっている「蕨」。

いま、全国最小の市で何かが起きている!!

…というわけで噂の蕨駅に着きました。

上野から京浜東北線南浦和行きに揺られてやってくると居眠りをこく暇も無いほど近い。

同じ埼玉県民でも文教地区と豪語する浦和民や埼玉の大都会を自称する大宮民でさえスルーしてしまうのが西川口・蕨の京浜東北線ディープゾーン。

駅東口に降り立つと、やはり西川口同様垢抜けない。駅のランドマークは東武ストアやパチンコ・カラオケなどが雑然と入る「埼栄ビル」のみ。どこの地方都市やねん。

そして埼玉に来るとほぼ必ず駅前にある銀行は「埼玉りそな銀行」。

蕨駅東口も、やはり典型的な埼玉の駅前である。

蕨駅前には全国最小の蕨市案内図がある。見ればわかるが最も長い部分でも端から端まで3キロ程度しかない。たったこれだけの街区で単独市政を続けているのは何故なのか。

京浜東北線の線路を跨いだ東側は蕨駅前の繁華街である塚越、あとは西側に中央、北町、南町、錦町。それだけで蕨市が構成されている。

隣の西川口同様、蕨駅前においても「性風俗店による客待ち禁止区域」を示す看板がドーンと立てかけられている。西川口と同じく、蕨駅周辺でもこの手の店舗の出店が後を立たないからだ。だって隣同士だもんね。

さらに路上にも「性風俗営業 客待ち禁止区域」を示す塗装が施されている。川口市によるものだが、蕨駅東口の繁華街は半分川口市にも跨っている。

とはいえ西川口のようにあからさまではないのが蕨駅東口なのだが、昼間はいたって大人しい街。「ぎょうざの満洲」の店舗を見かけると、やっぱりここは埼玉なのだと言う事に気が付く。

埼玉県民にとって中華料理は「餃子の王将」ではない。「ぎょうざの満洲」である。全店舗直営、餃子の食材は全て国内産で自家製、同じ埼玉県の坂戸市の工場で生産しているという地元密着っぷり。埼玉県内と東京都の埼玉寄りの地域にしかないローカルチェーンなのである。

駅前から伸びる「東口一番街」をまっすぐ行くと、「ザ・プライス」という見慣れないスーパーが現れる。実はこの店、元イトーヨーカドー蕨店だったものをディスカウントスーパーにリニューアルしたものだ。これは昨今の不況に伴うヨーカドーの新展開で、2008年8月の足立区「西新井店」を筆頭に、首都圏の郊外で価格にうるさい貧民が多い地域をターゲットに中心に順次「ザ・プライス」への鞍替えを行っているのだ。

つまり「ザ・プライス」がある地域は貧民街のバロメーターであると言える。今後も店舗数は拡大予定。(しかしザ・プライス蕨店は2016年に閉店、解体されている)

とはいえ蕨市の中心地はあくまで駅の西側。再びJR蕨駅の高架自由通路を跨いで西口に向かう。

「トラ情報いっぱい デイリースポーツ」の広告を見るなり、ここは本当に埼玉なのかと笑ってしまったが、もはやこの街のノリは関東ではなく関西に近いものすら感じる。さしずめ阪神電車の駅構内を彷彿とさせる雰囲気だ。

で、階段を降りた先では共産党のみなさんが熱心に演説中。そういえば蕨市は全国でも珍しい共産党市政だ。

東口よりもさらに微妙な西口にやってきた。

いつの時代も貧困層は一定数社会には存在するものだが、近頃の日本では新たなる貧困層の誕生が社会問題と化している。「ネットカフェ難民」の存在だ。

かつてインターネットといった通信網が無かった時代、高度経済成長期には、東京には山谷、大阪には西成といったドヤ街があり、そこで寝泊りしながら仕事を求める姿があったが、現在では「ワンコールワーカー」と呼ばれる、携帯電話一本で仕事を探す労働者が増える一方、物理的に労働者が集まる「ドヤ街」は消え、底辺の労働者の存在は水面下に潜ってしまっている。

そんな底辺の民が最低限の費用で寝る場所を確保できるのが「ネットカフェ」である。

◆なぜ東京で「ネットカフェ難民」が流行るのか

それは第一に東京の家賃相場がべらぼうに高いこと、第二には東京におけるドヤ街「山谷」の位置が最寄り駅から遠い上に一泊2200円もするので敬遠されるという事がある。

一方、近年隆盛を極める長期滞在者用ネットカフェは蒲田、池袋、そしてここ蕨の駅前などで増殖中。それも工夫すれば蒲田の「いちご」のように1晩1000円で済む店だってある。

遠くの三畳より近くの一畳半か、それともネット完備で飲み物飲み放題というメリットがあるからか、ネットカフェ業界の貧困ビジネスは留まる所を知らない。

そしてとうとうネットカフェに住民票を置いて「住ませてやる」と言い出す衝撃的な店まで現れて、メディアにも大きく取り扱われた。

その店の名前は「サイバーアットカフェ」。

駅前全体がどこか古めかしい、蕨駅西口のまん前にある。

蕨駅前には数店舗のネットカフェがあるが、サイバーアットカフェは駅前から最も近い場所の雑居ビルに店を構える。

1時間100円と大きく書かれてはいるものの、これは24時間利用の「1Dayコース」の1時間あたりの料金という意味である。書き方がせこくて笑える。

実際の値段は最初の30分が200円、あとは15分毎に100円という、至って標準的な料金体系だ。

狭くて古い雑居ビルにあるサイバーアットカフェの玄関。受付は2階だが、店舗は2階から4階までの3フロアに跨っている。地下は「わらびや」という喫茶店。

入口付近には店を各メディアに取り上げられたことを堂々と自慢する張り紙が。そりゃ全国探してもネットカフェに住民票を置けるなんてのはこの店しかないもんな。

早速店内に入ると、2階の受付で若い女性店員に「当店は何でお知りになられましたか」と問われる。「テレビで知った」と言うと、女性店員はニヤリと笑みを浮かべた。やっぱりテレビ様の力は偉大だということか?

まだ住み着いている人間がいるのかと質問すると、ほとんど埋まっていると、壁に備え付けてあるボードを指し示した。

3フロア合わせて40室、さらに隣のビルにも進出し、合わせて60室近くあるようだが、その殆どが長期滞在者仕様の「フラットルーム」。普通のオープンスペースの椅子はわずかに3つしか置かれていない。

気になる長期滞在プランは「Long80」という30日以上連続滞在が前提のプラン。1日1920円、30日で57600円という計算になる。

光熱費やネット代、飲み物代がフリーでこの値段なら安いと受け取れない事もないが、簡単な間仕切りが施された仮のスペースで1ヶ月暮らすというのもかなりハードに思える。それにシャワーやコインランドリーは別料金だ。

他のオプションサービスには「住民票登録・郵便物受取代行」3000円也。つまり月々60600円でサイバーアットカフェに「住める」わけだ。まさに完全なる「ネットカフェ住民」。

取材班の身なりを見ながらニヤニヤする女性店員に「よかったら、長期でご利用なさっても」とプッシュされてしまったが「まだいいです」とやんわり断って1000円の「3時間プラン」を利用した。

料金を払い3階に案内されるがままに階段に登ると、そこは想像よりも生活臭がしない普通のネットカフェの店内だった。しかしどの個室の前にも靴が置かれている。

室内は睡眠中の客もいるためかなり暗くしてあるし、個室に備え付けてあるライトも頼りないものが一本あるだけで漫画を読むにはとても適さない。

しかし「長期滞在者」が多いだけあって階段の踊り場にはパンパンに詰まったゴミ袋が置かれていたり、頻繁に清掃が入ったりしている。妙に消臭剤が置かれているのが目に付いた。やはりこのネットカフェは「住む」ための施設なのだ。

1.5畳の薄暗い個室の中で、この店は月々いくら儲かっているのだろうということを考えた。月々57600円の「家賃」プラス3000で50人の「入居者」がいれば、雑居ビル2つ分のランニングコストで月々300万円がコンスタントに稼げるわけだ。濡れ手に粟とはこの事だぜ。

さらにサイバーアットカフェは足立区北千住駅前にも進出を予定している。

貧困ビジネス、ここに極まれりといったところだ。

蕨駅はネットカフェ難民の聖地「蒲田」のように賑わっている訳でもなく、特に西口は閑散としている。

しかしこの「牛丼ぎゅうちゃん」だけは別格で、並300円からのメニューで牛丼バカ盛りで出してくれるという。牛丼だけではなくカレーや定食類もあり。貧民の味方はどこの町にも存在するものだ。

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東京DEEP案内の管理人です。2008年の開設以来、首都圏一都三県の街歩き情報を淡々と記録し続けております。いわゆる日陰者的物件、観光地にもならない場所、ちょっとアレな地域を見物・考察する事を趣味としております。2017年6月15日、単行本「『東京DEEP案内』が選ぶ 首都圏住みたくない街」(駒草出版)を発売。
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