終わりのない不況が続く中、今どきの家庭は少しでも家計の負担を減らそうと家庭菜園をやってみたりと随分「農」への関心が高まっているとかいないとか。しかし人によっては栽培してはイケナイ葉っぱを儲かるからと植えようとするDQNまでいたりして警察の御用となる事が多い。
だが、そんなヤバイ葉っぱの現物を始め、何らかの薬理作用があり医療の場にも使われる「薬用植物」のみを専門的に扱う植物園がある。「東京都薬用植物園」だ。
最寄りの西武拝島線東大和市駅からは目と鼻の先にある。駅の名前は東大和市だが植物園の所在地は小平市。こじんまりとした植物園だが、中で植えられているものは容赦なくヤバイ。入場無料なのも嬉しいね。
正面入口に向かって温室が建っているが、まずはここから左側のエリアへ。
訪れた時期が冬と言う事もあって比較的園内は寂しいが、まあ致し方なかろう。
植物園らしく、幾つもの区画に薬用植物が沢山植えられている。やはり冬だからか植物がまばらであるが、それでも変わった植物がかなり多種多彩に見られるのだ。
見た目には別段珍しそうでもない「イチイ」という針葉樹。4月頃に開花し、秋口にかけて赤い実をつけるが、種には毒性があり食べると死ぬ事もあるという。しかしイチイの樹皮は抗癌剤の原料となるタキソール(パクリタキセル)がごく微量抽出される。毒にも薬にもなる植物の不思議。
そこらの民家の脇にでも生えていそうなヘチマの姿も。これも薬用植物なのである。ヘチマの茎を地上1メートルの場所で切った先っぽを消毒したペットボトルに入れて固定すると取れるヘチマ水は、化粧水やうがい薬となる。
繊維の多いヘチマの実はタワシにもなるし、沖縄ヘチマ(ナーベラー)だったら食用にもなる万能選手。
しかし中にはヘクソカズラなどと酷い名前を付けられた植物もある。葉や花を揉むと糞の臭いがするという事から付いた名前だ。
ヘクソカズラは夏から秋に掛けて花を咲かせる。その花の色形がお灸を据えた跡に似ている事から「ヤイトバナ」という別名がある。冬場は大量に黄色い実を付けているが、これを潰して塗り薬に使えるのだ。果汁の成分がひび、しもやけの薬になるという。
しかし実にも容赦なく糞の臭いがするのだから凄い。これはスカトロマニアでなくとも気になって臭いを嗅ぎたくなるもので不思議。
ウンコ系植物なら他にも「クソニンジン」なんてものもある。人参ではなくキク科のヨモギの一種だとか。名付け親はきっと糞尿愛好家なんだろうな。一般的には黄花蒿という漢方薬の名で知られている。解熱剤や健胃薬の他、抗マラリア薬の原料ともなるとか。
良薬口に苦しとは言うが「良薬鼻に臭し」とも言えるのだろうか。
薬用植物園の中には意外なものに綿花も栽培されている。実が弾けて綿がはみ出している様子はどことなくカエルの卵のそれに似ている。
植物園の奥は鬱蒼とした雑木林になっていて、ちょっとした野外ステージが組まれている。きっとここで周辺の小学校などが自然体験学習なんぞをやったりするのだろうか。
この周辺で地面に落ちている実などは絶対に拾わないようにと厳しく書かれている。薬用植物とは言うが薬と毒は紙一重なのである。食ったら一発で死ぬような実も当たり前のようにあるので、要注意。
そして薬用植物園で最強状態でガードされまくっている区画には、日本の法律では許可無く栽培すると違法なケシとアサが生えている。厳重に仕切られた二重金網の向こうなので、よく見えない。
東京都内でケシが栽培されているのはここ薬用植物園しかない。日本全国においても、一部の大学などの研究機関や、それらに委託された北海道の数軒の農家を除けば存在していないという。
ケシの隣にはアサも栽培されている。これも同様に二重金網の向こうだ。肉眼ではなかなかじっくり観察できない。
背丈以上の高さもあるアサの木が金網越しに見えるが、あくまでも見るだけである。
アサは昔から人類に馴染みの深い植物で、かつては伊勢神宮など日本の神社でお祓いに使われていたり、種は七味唐辛子にも入っていたり、麻の繊維で作られた製品も数多く出回っている。
でも現在、日本を始め世界各国では大麻草の所持・栽培は違法となっている国が多い。オランダみたいに一部合法化せよという声もあるにはあるが、みんな酩酊状態でヘロヘロになると社会的にマズいのだろう、もともと繁殖力の高い植物だし、認めてしまえばあっという間に蔓延しかねない。ダメなものはダメなのである。
善良な日本人なら薬用植物園に行って、金網越しに見てるだけに留めておこう。