東京最南端の繁華街である蒲田は近年「新ドヤ街」とも呼ばれているらしい。随分前から格差社会と言われ始め、その象徴として、ドヤに泊まれる金もなくネットカフェ(漫画喫茶)を転々としながら生活を続ける「ネットカフェ難民」の存在が2007年に大きくテレビで紹介され、その時にネカフェ難民の聖地としてこの蒲田が取り上げられた。
日が落ちた後の蒲田駅東口に、漫画喫茶マンボーのケバケバしいデザインの看板と照明が煌々と照らし出されていた。メディアに取り上げられた事で蒲田の街はさらにネカフェ難民の街としての色彩を強めている。
そもそも工業地帯だった大田区の地域的事情もあり、大阪で言う西成のような、肉体労働で生計を立てる独身男性が集住する場所としての性質が強いという特徴は昔からある。ネットカフェだけでなく個室ビデオの数もやたら多い。もちろん、パチンコ屋やアレでナニな店もすこぶる多い。
漫画喫茶業界では代表的存在である「マンボー」もネカフェ難民の聖地「蒲田」では西口と東口の駅前至近の2ヶ所に店舗を構えている。しかも東口では既存の漫画喫茶に加えて新展開中の「ネットルーム」まで営業を始めていた。
マンボーのネットルームは一人用6時間1000円から使える、長期滞在を前提とした作りになっており、完全個室でプライベート性も向上している。シャワーやコインランドリー、貸しロッカー、仮の住所も置ける貸しポストまで、至れり尽くせりの内容だ。まさに進化したネカフェ難民用「ドヤ」。ちなみに1日の利用は2400円。
一転、既存の漫画喫茶では「1時間100円」とでかでかと書かれた看板の隅に小さく「男性は200円」と、地味に男性差別(笑)をしているわけだが、これが便宜上のネットカフェ難民対策なのは言うまでもない。難民的にはマンボーは高級店にあたる。
しかし蒲田にはまだまだ底値で勝負するガチの難民向け漫画喫茶も存在する。東口からそのまま2、3分ほど商店街に沿って歩いていくとここにも「1時間100円」と書かれたネットカフェがある。今度は男性差別はしていない(笑)
だがこの雑居ビルの前に立つと、目の前のエレベーターからひっきりなしに油臭いオッサンが出入りする光景を拝む事ができる。どう見ても「客」ではなく「住人」のいでたちだ。「いちご」という可愛らしい店名にはとても似つかわしくない。
しばらく観察してると、手に買い物袋をぶらさげてエレベーターに乗り込むオッサン、これから銭湯に向かうのか知らないが首にタオルを巻いて出てくるオッサンなど、みんなオッサンばかりというのが気掛かり。
どうもおかしい…と思っているとエレベーターの隣の掲示板に「激安コインロッカー」の案内があるので、案内に従って商店街の裏手に回ると、確かにそこには激安コインロッカーがあった。
でかでかと「12時間100円コインロッカー」と書かれた看板が置かれている上に、ネットカフェ店舗の案内も書かれている。12時間で区切っているのはネットカフェ難民の利用を当て込んでの事か。もし一晩「いちご」で夜を明かそうとすると、このコインロッカーに荷物を置いて、ネカフェを8時間利用すれば、1000円で釣りが来る計算だ。
で、残った100円はこの自動販売機で何か飲み物でも…といった具合だろう。これはネカフェなどではなく完全なドヤである。
案の定コインロッカーはかなりの数を揃えているにも関わらず半分以上が埋まっている状況だ。全て「いちご」の利用者なのかはわからないが、目の前で貧困ビジネスの何たるかを見せ付けられた感じだ。
さらにすぐ隣には男性用下着の自動販売機もあり、こちらも上下組み合わせでたった300円という激安価格。これがドヤと言わずに何と言うのだろう。
※注意:この貧民自販機コーナーのコインロッカーと肌着自販機は後に撤去が確認されました。現存しません。
そんな貧民ネットカフェが入居する雑居ビル。10階建てのうち4階が受付と客室で、さらに7階から10階までは全て客室となっている。一つの店としてはかなりの規模だ。もし火事とかになったら歌舞伎町の時の比じゃない気もしますが、なんで一泊千円で泊まれるのか考えると、負ってしまっても然るべきリスクなのかもね。
ちなみに蒲田駅西口の工学院前とサンライズモール商店街にそれぞれ店を出している「コミックガーデン」「ネットガーデン」も、ナイトパック7時間900円という激安コースを用意して、ネットカフェ難民を取り込んでいる。
ところで蒲田駅西口の「コミックガーデン」は、2012年6月18日朝、オウム真理教事件で17年間逃亡生活を続けていた高橋克也被告が発見され逮捕された場所。ネカフェ難民ばかりかオウムの指名手配犯まで潜む、これがまさしく現代日本の魔窟、新ドヤ街蒲田の闇は深い…