玉の井に続いて私娼窟の名残りを見ようと曳舟駅近くの鳩の街商店街を訪れたものの、想像以上に廃墟店舗ばかりでげんなりしかかっていた。
しかしこんな所にも古民家再生系カフェが場所柄とは裏腹に建っていたりして、一方的に寂れて行くばかりという現状ではないようだ。谷中あたりにはこの手の古民家再生系物件をよく見かける。
こんな地味な商店街だが、端から端まで歩いてみると結構長かったりする。商店街は隅田川河川敷近くの墨堤通りまで続いていて、およそ500メートル近くはあるだろうか。
商店街の中程には、昔から続く店が比較的健在といった感じで並んでいる。狭い路地裏のような道幅に店が並ぶ風景。京島のキラキラ橘といい墨田区のレトロ商店街はどこもハイグレード過ぎる。
この周辺は戦災に遭わず焼け残った家や店舗も多く、外壁が銅板葺きの店舗も残っていたりする。
墨堤通りに近い側に出ると、古い店舗に紛れて銭湯も存在していた。
カフェー街が隠れている裏通りに気付かずにまっすぐ商店街を抜けると、ただの古い下町の商店街だなあと思う程度で終わってしまう。
周辺の住宅街も容赦なくオンボロ木造家屋だらけで凄まじい。やっぱり地震とか火事には滅法弱そうな墨田区ならではの住宅事情。
…また商店街に戻ることにしよう。
目当ての遊郭建築が密集する怪しいエリアは、鳩の街の一歩東側、東向島一丁目23~24番の一帯に固まっている。
魚屋や惣菜屋が並ぶ商店街の表側から一歩中に入ると途端に現れたカフェー街独特の建築群。鳩の街にはこうした建物が十数軒、かなり忠実に残されている。
1階部分の丸い柱、角の曲線。玉の井でも見られた形の典型的なパターンだ。
少し人が出入りするには狭そうなカフェーの勝手口。斜め向きに取手が二重に取り付けられた変なドアがついている。和風とも洋風ともつかないカフェー街の建築樣式は当時「警察の指導」によって作られたものだというから笑える。
この一帯も見事に住宅地化してしまっていて建物も住人の生活臭がバリバリ漂っている訳だが、そこで見かける独特の遊郭建築はやはり非常に目立つ。
柱には緑とピンクの市松模様の豆タイルがびっしり。さすがに老朽化しているためか所々剥がれ落ちているのが痛々しい。
歴史の闇に葬り去られるかのように、これらの家々も寿命が来ると取り壊される運命にあるだろう。行政なりが重要建築物として保存する向きも無い。日本が持つ性風俗の歴史や文化は平成の世に変わりますます蔑ろにされ消えゆく道を辿っている。