浅草・千束…江戸最大の吉原遊郭跡を間近に控える下町の一角にある「浅草鷲神社」。酉の市起源発祥と言われていて江戸時代中期からの歴史もあり有名な場所だ。ここで11月に行われる「酉の市」は都内でも最も数多く参拝客が訪れる。
普段は人っ気もまばらな下町の姿も、酉の市が行われている時に限れば凄まじい人出で溢れかえっている。最寄りは日比谷線の入谷駅から金美館通り商店会を経て徒歩10分程。
駅からの道は人並みが絶えないので恐らく迷わず来られるはずだが、鷲神社の前では交通整理が行われていて境内に入るまで相当回り道をさせられる事になる。
ド派手な飾りのついた巨大熊手と提灯で彩られているのは鷲神社ではなく、隣にある長国寺の山門である。鷲神社と長国寺はお互い「酉の市発祥の神社」「酉の市発祥の寺」と名乗っているが、明治の神仏分離令によって長国寺から鷲神社が分けられて今に続いているのだ。
長国寺山門前までやってくると、既にまともに歩く事もままならない程人でごった返している。お参りする前に人混みに気が滅入りそうになるが、それでもここぞとばかりに押し寄せる参拝客の姿を見ると、日本人の信心深さを思い知らされる。
山門前に飾られた縁起物の熊手の豪華さたるや目を見張るものがある。参拝客は「福を掻き込む」ご利益があるという熊手を買い求めに来る。その際前年の古い熊手を持って来て、神社に納める必要がある。そして新しい熊手を買う時は、前年のものより必ず大きなものを買うとご利益がつくとされる。
なんともゲンキンな感じが大阪の今宮戎で言う所の「福笹」にも通じる。
長国寺の山門を潜るとそこは夥しい数の熊手屋がこれでもかと軒を連ねるのである。
それぞれ屋号がつけられており微妙に縁起物の飾りも異なるが、どこがどう違うのか素人にはさっぱり分からない。
どこを見回しても人だらけなので移動するだけでも汗が吹き出てしまう。大人数で訪れた時は迷子は必至。縁起物探しも根気と体力が必要のようだ。
鷲神社と長国寺の境内に並ぶ縁起物屋台は200軒を超える。業者も地元浅草はもとより葛飾区や、埼玉、千葉など関東を中心に広域に散らばっている。
ちなみに関東以西では調べてみると、名古屋大須の酉の市、浜松大安寺の酉の市くらいしか情報が出てこない。つまり酉の市はほぼ関東独特の習慣なのである。
縁起物の熊手を作る為の材料や小道具が展示されているコーナーもある。当たり前だけど全部手作業だ。こうした熊手作りの職人も「ちゃきちゃきの江戸っ子」な一家に代々受け継がれていて、立派な伝統民芸品だ。