サイケデリックで豪勢な外観を存分に堪能した後は、ちゃっかり建物の中まで観察することにしよう。
まずは玄関口に立つ人間を出迎えるのは、守り神か何かのように地面で舌を広げる鬼の顔である。これも一枚一枚タイルが敷き詰められていて、しかも微妙に波打っている。バリアフリーとかそんな事はお構いなしである。実に清々しい。
鬼の顔を踏んづけるように建物の中に足を踏み入れると、まるで中東のどこかの国家を思い起こさせるようなエキゾチックなタイル柄の壁に「WASEDA EL DORADO」の文字が見える。早稲田黄金郷か。
エントランスの中程には建築家である梵寿綱氏の言葉が刻まれた黄金色のプレートが掲げられていた。まるでお経みたいだ。
エントランスから奥へ続く道もカーブを描いている。直線的なものは無機質的であるからとして極力排除しているというスタンスは、やはりアール・ヌーヴォーの特徴で、ガウディやフンデルトヴァッサーのそれと共通する。
曲がりくねった廊下の中はまるで中世の城にでも迷い込んだかのようなメルヘンっぷりだが、その先にはとてもそうには見えない郵便ポストと、オートロックが置かれていて住人以外の立ち入りを拒んでいる。
オートロックの手前には、なぜか逆さにぶら下がった巨大な人間の右手がオブジェとして置かれていたのだ。ある意味怖い。きっと住む人を選ぶ建物であるに違いない。
暗くてよく見えないが、床には人間の足をモチーフにした模様も隠れている。
巨大な右手の真上を見ると天井にはステンドグラスの他、大量のガラスの林檎が吊るされている。
その先にはオートロックで区切られた扉を挟んで各住居に続くエレベーターがある。ここから先を見るには住人と友達にでもなるか、運良く空き部屋を待って入居するしか方法がなかろう。
ちなみに賃貸だと2LDKの物件が家賃15万円、管理費2万2千円との事。我々のような貧乏人には手が届きませんね(→詳細)
もうこれ以上は見られないので、仕方なく建物の外に出る。1階の店舗部分は今は美容室をはじめ数店舗入居している。
美容室は美容室でも「早稲田男髪サロン」…男専用の美容室だった。ウホッ。
美容室の傍らには「城の樹」と書かれたプレートが掲げられているのだが、美容室以前の店の名前だったのか、それとも建物全体に対する愛称なのか、今一つよく分からない。
しかし、四半世紀前の建物であることを感じさせない新鮮な驚きを今も与えてくれる「ドラード早稲田」は、今どきの利益追求型のくだらないマンションばかりを建てる業者や、なんちゃってデザイナーズマンションの軽薄さとは真逆の存在であることは間違いなかろう。
なぜ最近の建築物にはこういった「凄み」が無いのだろう。