東成田駅、成田湯川駅に次ぐ“成田空港とその周辺にあるよく分からない鉄道施設シリーズ”、今回は第三弾となります。さて、東京からノコノコ片道1時間以上も掛けて京成線の電車に揺られてやってきたのは…

「日本一短い鉄道」として一部の鉄ヲタ軍団には熱い視線を浴びる「芝山鉄道」の終着駅、芝山千代田駅である。改札を降りるとのっけから「はにわの里人」の顔ハメ看板がお出迎えするものの、ここは一体どこかと申しますと、千葉県山武郡芝山町という地域でしてね…

芝山町は人口約7000人、成田市や富里市といった自治体に隣接する町だが、その町域の一部に成田国際空港が掛かっている。この謎めいた芝山鉄道線なる鉄道路線は空港ができるせいで東西の往来が不便になる町民への見返りとして作られた第三セクター鉄道の路線で、京成本線の旧成田空港駅、90年代で時代がストップした古臭い駅舎のまま使われ続けている現在の東成田駅から2.2キロという僅かな区間を延伸して2002年に開通したものだ。
芝山鉄道・芝山千代田駅にはどうやって行くんだ?!

東京都民様や神奈川・埼玉県民はおろか千葉県民ですらその存在を把握していなさそうな謎の芝山鉄道への唯一のアクセス方法は、京成本線で成田駅から分岐している“東成田線”を経由して行くのみ。東成田駅の古臭い地下ホームにやってきますとね、なんか心なしかカビ臭いっすね…

そこに入線してくるのは京成線のお古「3500形」の4両編成の車両。まれに芝山鉄道のラインカラーである緑色の帯が入った車両を見かける事があるが、そんなの鉄ヲタでもなければ誰も意識しないであろう。行先表示器の表示が「(東成田)芝山」になっている。成田湯川駅に止まるアクセス特急同様、この電車も未だに基本40分に一本ペースしか運行しておらず、全く使い物になる感じがしない。

誰も乗っていないガラガラの3500形車両に乗り込むと、座席のソファーが見ての通りのテキトーな応急処置っぷりで、まるでお古の日本製車両がバンバン走るジャカルタか東南アジアのどこかに来たような錯覚に陥る。京成線ユーザーであればちょいと昔にあった「行商列車」を思い出しそうな展開。東京方面の電車も、早朝時間帯に上野に直通する電車が一部あるものの、基本成田駅で折り返す。誰もいない車内だが、成田空港の周辺警備の事情もあって、常時警察官が乗り込んで極左過激派への警戒にあたっている。場所柄っすね…

東成田駅を出た京成の車両は芝山鉄道線に入り、わずか3分で終着駅である芝山千代田駅のホームに辿り着く。伊達に「日本一短い鉄道」を名乗ってはいない。東成田駅とは違ってこちらは高架ホームで、成田空港に止まっている飛行機が間近に眺められる。“過剰投資”感否めない成田湯川駅とは違ってこちらは一面一線のみのシンプルな構造だ。

えー、とりあえず我々以外の乗客がいないんですけど…ちなみに成田空港の地下を通る同路線は空港敷地内に残る、空港反対派が居座る未買収地「木の根ペンション」の敷地を避けているため、そのぶん線路が迂回している。乗降客数は1542人(2018年)で、その利用者は芝山町から都内に通勤する客…よりも成田空港や関連施設の従業員・関係者の方がはるかに多いようだ。

ところで芝山千代田駅の駅番号は「SR01」で、埼玉高速鉄道とモロ被ってますが千葉と埼玉で分かれているので、基本問題ないんでしょうかね。蛇足までに、埼玉高速鉄道線(赤羽岩淵~浦和美園)の駅番号は「SR19~SR26」を使用している。

芝山千代田駅構内で見かけられる駅名表示板や案内板などは全て京成線のデザインと同一のものが使われている。芝山鉄道のラインカラーの緑色になっている以外は「ほぼ京成」である。ちなみに芝山鉄道自体は京成グループの会社ではない。理由は後述する。
かつては“行商列車”の始発駅でもあった芝山千代田駅

ちなみに東日本の鉄道網で最後の「行商列車」(正式名称・嵩高荷物専用車、2013年廃止)があった京成線も、ここ芝山千代田駅を午前7時46分に出ていた上野行きの普通電車がそれにあたる。京成上野駅到着は午前9時52分…二時間掛けて上野まで野菜をドッコイ担いで売り歩く農民の人生…ああ、昭和は遠くなりにけり…当方、京成線利用中に一度だけ行商列車の実物を見た事がありましたが、写真の通り、くたびれたお婆さんが大勢普通電車の最後尾車両に陣取っておられました…
芝山鉄道は京成グループにあらず、成田空港会社の子会社です

そんな芝山千代田駅、40分に一本しか電車がやってこない駅なので、暇潰しになるようなものがちょいちょいある。「芝鉄文庫」なる善意の無料プチ図書館がホームの待合室に置いてあるけど、肝心の読む本が全然置いてありませんでした。もはやどうすることもできません。一昔前なら行商の婆さんが待合室でたむろしていた風景も見られたかも知れませんがね…

個人的にはここも京成線最強の秘境駅である「大佐倉駅」レベルの設備でも間に合いそうな気がしたのだが、ここにもちゃんとした自動改札機もある上に、駅員だって常駐しているのである。そりゃ同社の本社所在地もこの駅にあるわけだもの、そうなるか。駅構内の広告スペースもスカスカで、辛うじて地元の芝山町観光協会とか、芝山鉄道の筆頭株主である成田国際空港株式会社の広告が出ているくらいだ。

そもそも成田空港会社が持つ芝山鉄道の株保有率はなんと68.40%、空港会社の子会社扱いなので、“芝鉄”は京成グループの鉄道会社ではない、ということになる。ちなみに第三セクターだけあって同社の株は千葉県が14.59%保有している他、京成電鉄にいたっては僅か3.46%しか持っていない。…それで、芝山鉄道は未だにICカードが導入されていないので、うっかりPASMOやSuicaでピッと乗車してきた客は駅員を呼んで精算する羽目になる。要注意だ。恐らく今後も導入予定はないのだろう。

客が少ないせいか二台ある券売機もうち一台が使われていなかった。上部の運賃表の看板も「京成線連絡普通きっぷ運賃表」という文言になってしまっている。隣の東成田駅までの200円が“芝鉄”の運賃、そこから成田駅以遠は京成線の運賃が上乗せされるが、東京都内に向かうとほぼ千円オーバーである。割高感はあるよね。

一階の改札口に降りたところに芝山町の名物らしい「埴輪」の数々が販売されているのが見かけられるが、こんなの誰が買っていくのかますます謎は深まるばかりだ。そして芝山町のキャラクター「しばっこ」もやはり埴輪である。
何もない芝山千代田駅に打ちひしがれるも2019年末にスパ銭開業予定

とりあえず駅前のロータリーには路線バスがひょいひょい乗り付けてはくるが、肝心の乗客の姿は皆無っすね…ここから2キロ離れた「航空科学博物館」などに行くバスも走っているが、本数も少なく結局歩いて行った方が早いし、やはり成田空港から出ているバスの方が早く着く事が多いので、この駅自体に来るきっかけも少ない気がする。

誰もいないロータリーの中央にデデーンと三体並んで鎮座するは、やはり埴輪…昭和生まれのオッサンからすれば80年代のNHK教育テレビ(Eテレとは呼ばない)の「おーいはに丸」に登場する“お馬のひんべえ”を否応なく思い浮かべる展開である。

芝山鉄道のSRマークのついた地元観光協会・商工会が運営する売店らしき小屋は見かけられたが、全く営業している様子はない。どうも弁当とか売ってるみたいなんですがね…他に見回しても駅前にはまともにコンビニ一軒すらなく、600メートルほど離れたところにあるファミリーマートまで歩くくらいしかできない。

その他、芝山町と隣接する多古町の住民なら一日たったの200円で使えるという「芝山鉄道利用者専用駐車場」というものまであったが、ここ以外にも多数あるコインパーキングは「1日300円」が相場だ。一部、近隣の物流倉庫や空港関連施設の従業員が使うのだろうが、案の定、駐車場は供給過剰でダダ余りである。

せっかく「最果ての地」感漂う芝山千代田駅まで遠路はるばる来ておいてこれを言うのも申し訳ないが、本当に何もありませんでした。駅周辺は成田空港の関連施設、貨物地区などがある程度であとは古くからの芝山町民の集落が広がるだけ。

そんな存在意義もよく分からないまま開業から17年が経とうとしている芝山鉄道、“みんなの願いは早期延伸”だそうで、今後は芝山町中心部や総武本線松尾駅を通って九十九里(蓮沼)方面に延伸する予定があるらしいが…全然実現しそうな気がしない。
それから2019年末にはスーパー銭湯(成田空港温泉 空の湯)が開業するらしいので、その時期になれば少しは芝山鉄道の利用者が増えたりしないかね。ここのスパ銭が出来たら、それこそ飛行機待ちの外国人観光客の暇潰しにちょうど良くなりそうじゃありません?今まで地元町民の補償のために採算度外視で運営してきただけの鉄道会社も、ようやく日の目を見るチャンスが現れたようだ。
駅前には何もないけど、極悪非道「船橋18歳少女生き埋め殺人事件」の民家が近いです

あと芝山千代田駅の近くの民家敷地には2015年4月に発生した「船橋18歳少女殺害事件」で、被害者の女性が生き埋めにされて殺害された畑がある。本来なら“綾瀬コンクリ”並みに凶悪極まりない重大事件でありながら世間の関心は薄く、とっくに忘れ去られた感がある。加害者グループの多くも未成年者で、犯行動機も些細な理由から起きたものだ。“事件現場マニア”の方は芝鉄に乗られてみてはどうでしょうか。