先日に引き続き、再び横浜・根岸界隈の街並みをお送りしたいと思う。海側には巨大な製油所、丘の上には戦前の競馬場跡と米軍住宅、そして高級住宅地があるが、根岸森林公園を離れて山元町方面に谷筋を辿る道を降りていくと、くすんだ下町風景に変わる。
高台に金持ちが、谷底に貧民が暮らすという構図は日本全国共通しているが、特にその風景が顕著に見られるのが横浜という土地。石川町駅を挟んで山手方面と寿町方面の歴然たる格差を見て露骨過ぎるな横浜はと感心させられるのだが、それに近い構図がここ根岸でも見られる。
歩いている路地はいつしか高級感も抜けて、戦後から残っているような古いバラック建て民家が目立つようになる。寂れた地方都市の路地に紛れ込んだかのような気分にさせてくれる。これが横浜の中心部に程近い場所にある街並みだとはにわかに想像しがたいが、横浜というのはもともとこういう街なのだ。
市バスが往来する山元町商店街に近くなると民家の密集率も上がり、狭い谷戸地の谷底を無理に切り開いたのだろうか、迷路のようなややこしい路地裏があちこちに出てき始める。
吸い込まれるように民家が折り重なる狭い路地裏に足を踏み入れる。行き止まりかと思ったがそうではないらしく結構住民の行き来が激しい。この密集率の高さは川崎池上町の路地裏に匹敵する。
こんな狭苦しい土地に無理矢理家を建てるとこういう事になる。すごくユニークな形をしたお宅ですねえ(渡辺篤史風に)独身だったら笑い話で済むが一家全員で住むにはちと狭くないか?
間違いなく火事が起きたら延焼してしまいそうな狭さの路地。消防車も入れません。さっきの高台にあった米軍住宅の広々としたアメリカンな空間とは天と地ほどの違いがある。
そしてコンスタントに見かける痛々しい崩壊民家の数々も見逃せない山元町の路地裏風景。やはり全体的に見ても寂れゆく住宅地なのだろう。横浜駅に出るにも市バスしか有効手段がなくて不便だし。
一体どのへんを歩いているのか分からなくなりそうな路地だが、そのまま何となく進むと山元町商店街の方面に出る。それはいいが道端に犬の糞が落ちていて危うく踏んづけてしまう所だった。こんな狭い道なんだから犬の糞くらい拾えよ飼い主。
そうこうしているうちに市バスもひっきりなしに通る山元町商店街へと降りてきた。この商店街の風情がまた凄い。戦後の雰囲気がかなり濃厚に残存している。観光地化した元町や中華街にも比較的近い場所なのにちょっと奥に入った所がこれなのだ。
根岸森林公園へ通じる「簑沢入口」付近に建っているのはベタな看板建築の渡辺食料品店。既に営業しておらず、かつて店番をしていたであろう老婆がシャッターの一部が開いた玄関部分から顔を覗かせて座っていた。
根岸台から伊勢佐木町方面に下る緩やかな坂道に沿って蛇行しながら続くアーケード商店街。そのアーケードもかなりくたびれていて、昭和の時代から時が止まったような個人商店ばかりが連なる。バス停で待っている客以外に商店街で買い物している客の姿も殆どいない。
「美と若さを」なんて書かれている昭和なセンス丸出しな美容室の看板。その商店街がさっぱりイマドキな若さや美的感覚とは無縁の煤けた風景を晒しているそのギャップたるや異常。我々は寂れた商店街に美的感覚を感じておりますので全然構わないですが。
完全に現代人の生活様式に見合わなくなった行き遅れた商店街といった風情で、軒並み店を畳んだシャッター通りと化している。念のためにフォローするともう少し坂を降りるともうちょっとまともな店が並んでます。コンビニとか。
両端の歩道にアーケードが設けられた商店街の道筋は「大平町入口」交差点あたりで大きくカーブを描く。市バスはすっかり別世界となったおのぼりさん憧れの横浜駅に向けて市民を運ぶ。
我々は商店街を外れて「大平町入口」交差点から再び山側に入っていく事にする。もう一ヶ所どうしても見ておきたい場所があったのだ。それは「横浜市根岸共同墓地」である。
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