新宿区大久保の職安通り沿いに立つ異形のマンション。建築家渡邊洋治氏の設計で1970年に作られたそのマンションはその外観から「軍艦マンション」の異名で呼ばれていた。それが老朽化を迎え解体の危機に瀕していたという話は聞いていたが、その後どうなったか全く様子を見に行っていなかった。
だが先日たまたま東新宿駅前の大久保二丁目交差点付近からこの軍艦マンションを眺めると少し様子が変わっていた。軍艦のような外観はそのままに、外壁が綺麗に塗り直されている。
14階建てのマンションは部屋の一つ一つがコンテナ状に外に張り出したような形で、コンセプト的には新橋(銀座八丁目)の中銀カプセルタワービルと似たような印象を受ける。大阪万博のあった1970年前後の珍建築は、日本にも「異端」を楽しむ心意気があった時代を象徴するものだ。
しかし時代は流れ40年、「ニュースカイビル(第三スカイビル)」の名でこの土地に君臨していた巨大な軍艦はまるで忘れ去られたように街に置かれ、内部も荒廃が激しくコリアタウン化する新大久保の街に呼応するかのごとくいつしか住民も韓国人だらけになり怪しさを増していった。
そんなニュースカイビルの玄関前まで足を運んでみると、なぜかビルの前に沢山の人だかりが出来ていた。何かイベントをやっているっぽい。
何だろう一体、と思って表に貼り出された看板を見て驚いた。
「軍艦マンション再出航イベント」と書かれているではないか。
あの軍艦マンションは、解体の危機を免れていたのだ。
…という訳で運良く軍艦マンションの内覧会が出来る機会だったので中に入ってみる事にした。どうやら取り壊し寸前の所を業者が変わったのか方針が変わったのか知らんが、取り壊さずに内装を大胆にリノベーションした後に売り出す事となったようだ。
軍艦マンションへのアプローチは、地下駐車場から。40年前の設計だから車が通るにしてはやけに細い道幅のスロープ。
やけにアーティスティックな雰囲気全開な訳だが、この珍建築マンションをフツーの人に貸し出してもしゃあないので、アートな方々に住んでもらおうという方針にした臭い。内覧会と合わせてビル内各所にアーティストの展示ブースが広がっていた。
14階建ての軍艦マンション内部は古びた2台のエレベーターがあるが、イベント開催中のため客が多すぎなので、階段室から回ってみる事にする。この階段もやけに天井が低いわ、奥と手前で幅が違うわと珍建築ならではのメチャクチャっぷり。
階段で人がすれ違うのが難しいくらいの細さなので、緊急時の避難が大変そう。一応消火栓とか防火設備があっても窓が全然ない階段室を行き来するのは結構な圧迫感を覚える。見た目の奇抜さと引き換えに居住性は度外視されている。
階段の壁に置かれた器具類も1970年建設当時のものがそのまま残っていたりしてレトロ風味満載。やっぱり伊達に築40年は経っていません。
リノベーションを済ませた新軍艦マンションの14階建てのだいたいの内訳は、10~14階が居住フロアとリビングスペース、6~8階がシェアSOHO、3~5階がオフィスフロア。職住近接のクリエイティブビジネス空間としてアートな方々が使うように設計されているらしい。
最上階の14階へ上がるとそのすぐ上が屋上で、何やら音楽が鳴っていたり人の声がガヤガヤする。イベント開催中らしい。
大胆にリノベーション済みという新軍艦マンションの室内にも一応入ってみた。本当はリニューアルされる前の小汚いカオスな状態のままで見たかったけどなぁ。まあこれも時代の流れか。取り壊されなかっただけよしとしよう。