また一つ、遊郭時代の電灯がそのまま残っていた。頭上の位置には何かしら看板が掛かっていたと思われる骨組みが見られる。もしかすると「ぬけられます」などと書かれていたのか。
その背後の赤い外壁のオンボロ民家の存在もたまらなくレトロである。
遊郭建築の特徴の一つとして、赤い外壁の家というのは注意して観察すると結構な割合で見かける事がある。赤でなくともピンクに近かったり。人の持つ野性を刺激する色なのだろう。昔だったら、夜ともなるとネオンサインもピンク色で、街を来る男達を迎えていたのだろう。
今や普通の古い下町の住宅街として静かに余生を過ごしている安浦のカフェー街独特の建築群。こういう街にありがちな事だが、他所者にはどこか冷たい視線を仕向けるかのように、張り詰めた空気が漂う。
傍から見ると、裏の歴史など何一つ分からないように見える、どこにでもある古い下町でしかない。
かつては安浦遊郭の前は漁港だったというが、その面影は微塵もなく、埋め立てられて綺麗に整備された高層マンションが海岸を塞ぐように建っている。現在では平成町という地名に変わって、かつての漁港は新安浦漁港としてさらに沖合いに移転している。
ようやく食堂らしき店を発見したと思ったら、どう見ても営業している雰囲気ではなかった。七五三食堂とある。玄関の開き戸はどう見ても中華料理店風。
かれこれ小一時間歩きまわっていたが、どうやら安浦遊郭の外れに来たようだ。骨組みだけが残るかつての遊郭のアーチ。ここに取り付けられていたはずの看板には、何と書かれていたのだろう。
そこから道路を挟んだ反対側は、横須賀市三春町となる。地名も「三春」で、スナックの名前も「みはる」だが、この付近に来るとやけに警察官が周囲を「見張る」のが目に付く。
何を見張っていたのかと思ったら、そこにはあの小泉純一郎邸がそびえていた。地元が横須賀だとは聞いていたが、よりにもよって安浦遊郭の真ん前に家があったとは、さすが変人宰相は違う。
付近を見ても、とても総理大臣経験者が住むような佇まいのお上品な街には見えない。
小泉さん家の斜向かいは全面トタン張りの木造バラック家屋。
廃屋同然に放置された家も残っていて、下町と言えどもどこか雰囲気が違う。変人宰相が幼少から育ってきた街の光景はさぞかし壮絶だった事だろう。
真裏に回ると、とある地主の家の敷地が広がっているようで、かなり古いコンクリート塀が街路の片側を埋め尽くしているが、その先は袋小路で元に戻らざるを得なかった。
この辺は安浦遊郭からは外れる訳だが、相変わらず妙な佇まいの住居が多い。戦前建築だろうか。モダンな特徴のあるコンクリート家屋だ。
何とも裏寂れた街だが、小泉さん家のご近所にあるのが「グループホームゆう愛」ですよ。笑ってしまいました。友愛されないように東京DEEP案内取材班も気をつけます。