もっとも歴史的経緯で沖縄人街であるわけではないので、何気に人の家の表札をチェックしても金城さんや大城さん、比嘉さんがうじゃうじゃいるということもなく、また一見普通の商店街よりも肉屋比率が高いと喜んで肉屋の一軒一軒をチェックしてみても沖縄の肉屋らしくテールやミミガー、チラガーなどが置かれているわけもなくいたって普通の肉屋だったというオチもある。残念ながら完全に沖縄になりきれて居ない。
「めんそーれ 大都市場」と書かれた市場の建物の中から三味線ならぬ「三線(さんしん)」の音色が聞こえてきた。いやがうえに沖縄ムードを盛り上げてくれるが、それにしても人通りの少ない商店街だ。
大都市場のある建物の横手にふと目をやると、思わず息を呑んでしまうような古めかしい路地裏が開けていた。さらに路地の両脇から吊るされた網にゴーヤが勢いよく弦を伸ばしている。
見事なまでの藤棚ならぬゴーヤ棚だ。既に大きくなったゴーヤの実がぶらさがっている。
思えば10年ほど前まではスーパーで普通にゴーヤが売られている事もなかった記憶がある。もっとも当初はゴーヤという言葉も使われずニガウリと言っていた。テレビ先導の「沖縄ブーム」によるものでゴーヤが健康的だと宣伝された結果だと言われているが、家庭菜園に詳しい人以外には「ツルレイシ」という和名がある事はあまり知られていない。
ゴーヤ棚の向こうにはびっくりするほど古いトタン張りの木造家屋が狭い路地にひしめき合っている。むしろこっちの方が商店街よりも「沖縄タウン」臭い。
先ほどの三線の音色はこの扉の中から聞こえていた。三線の専門店「とぅるるんてん」である。ここの店主はリアルで沖縄人だ。
その先に大都市場に入れる裏道がある。ものの見事に沖縄系の店ばかりだ。
…と、ヒト一人がやっと通り抜けられるほどの狭さであることに気づいた。デブは通れません。正面入口からお回りください。
しかし居酒屋が主要なのだろうか昼間はご覧の通り閑散としている。ひたすら三線の音色だけが聞こえてくるのであった。
大都市場の正面入口。当初は普通の市場だったそうだが時代の変化で空き店舗だらけになったところを沖縄の商店を誘致して、市場の建物のつくりも相まって沖縄の公設市場そっくりの風情を漂わせる空間に生まれ変わったと、もっぱらの評判。
戦後、地下鉄丸ノ内線が出来るなど新宿方面からの鉄道アクセスがよくなるにつれ、とりわけ特別な観光名所もシンボル的な施設もないこの和泉界隈は寂れるばかりであり、沖縄タウン化は商店街再生の最後の切り札だったと言われている。商店主の一部からは「一過性の沖縄ブームだけをあてにおかしな真似をするな」などと反対の声も挙がったそうだが、それでも頑固に沖縄から店を誘致するなどして今の姿になったそうだ。