溶岩に呑まれた集落、火山ガスが漂うゴーストタウン…伊豆諸島「三宅島」上陸記

島嶼部

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雄山中腹の村営牧場跡地は「死の大地」さながら

三宅島 三宅村

火山と地震の国・日本に住んでいて、東日本大震災を経験してもなおその自覚をすっかり失いそうになる程、平穏無事に生活している我々だが、火山と共に生活を続ける三宅島や伊豆大島の住民の日常は本土の住民からすると想像以上に厳しい。三宅島の2000年の噴火ですっかり変わり果てた風景がもう一つある。雄山登山道の上にある三宅村営牧場の跡だ。

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麓では「高濃度地区」の指定が解除されガスマスクなしで移動できるようにはなったものの、噴火活動は今でも続いていて大量の火山ガスが発生しているのは変わりがないので、雄山の山頂付近は未だに立入禁止区域となっている。登山道も一応車で通行可能だが、一般の観光客は途中までしか登れない。

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阿古地区の南にある富賀神社付近から登山道を車で登る事ができるので登ってみるのだが、少し標高が上がっただけで山の斜面一面に立ち枯れた木々が現れる。後から生えてきた草で山が緑色に覆われてはいるが、かなり異様な光景。

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微妙に硫黄臭さは感じるがそれでも山の上に登ると景色が素晴らしい。ここから20キロ離れた隣の御蔵島が拝める。以前東京から御蔵島に渡るには三宅島経由が殆どで直行便が少なかったのだが、2000年の噴火以降、八丈島航路が御蔵島に直接寄港するようになり、ドルフィンスイムの客がみんな御蔵島に流れてしまい割を食った三宅島の業者が渋い顔をしていると聞いた。

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麓から登ってきて10分程で、三宅村営牧場があった雄山の中腹まで来る事ができる。ここから荒々しく噴煙を挙げる雄山の頂上部分が見られるのだが、相変わらず大量の火山灰を被っていて頭から半分くらいが灰色に染まっている。

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唯一この土地が牧場だったという物証を示しているのが、高台の上にそびえる「三宅村営牧場」の文字が書かれた青いサイロだけである。人間はおろか生きた動物の姿すら見かけない、まるで「死の大地」と形容したくなる空間である。観測装置から発せられる音なのか知らないが、時折無機質なビープ音がこだまして聞こえてくる以外は、物音も全くしない。

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雄山は2000年の噴火で元々標高814メートルあった山の頂上部分が吹っ飛んで火口の周囲が陥没してしまい、今では標高775メートルになってしまったそうだ。大量の火山灰に混じって噴石や火山ガスがこの一帯を襲い、村営牧場をはじめ三宅島にいた300頭余りの牛は全島避難指示が出た後に人と一緒に避難したようだが、残り半数程度が島に残され、噴石に当たって死ぬか、火山ガスの毒で死ぬか、餓死するかという悲惨な目に遭ったらしい。

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牧場があった付近の建物も、やはりコンクリート建造物以外のものはことごとく破壊されているようだった。遠目に見える建物は「三宅島青少年研修・スポーツセンター」だったらすうが、荒れ放題になっているのが遠目にも見えた。

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どの建物もコンクリートと鉄骨部分だけが残っているだけで、噴火の時の高熱で焼け落ちたりして元の形状を留めていない。

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もう一つ、目の前にある平屋建てのコンクリート倉庫のような建造物。見た目にはかなり年季の入った作りである。案の定ここも廃屋と化しているが、せっかく近くにあるので中を覗いてみよう。

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扉が外れて開け放たれたままの建物の玄関から中を見るといろんな資材がそのまま放置され散乱していた。

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内部がこれだけ荒れ果てているのは、長年放置されたからか噴火活動のせいなのか定かではない。この倉庫のようにコンクリートの屋根を持たない建造物は、容赦なく雄山から噴出される火山弾の直撃を受けて家屋に損傷を受けるか、高熱で焼け落ちるかしている。

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この一帯が牧場公園になっていたらしいのは分かったものの、噴火活動で全く様変わりして何が何だかといった感じだが、案内図の看板だけはしっかり残っていてどこに何があったか大体のものは示されている。

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すると今立っている辺りに牛舎があったり、山羊さんランドやら牛さんランド、馬さんランドとかいうのがあったみたいで、まあ確かに牧場跡だったようだ。今でこそ片付けられて何も無くなったが、全島避難解除当初は骨だけになった牛の死骸がゴロゴロ転がっていたらしい。牛だけでなく馬も山羊も、同様に死んでいったのだろうか。

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噴火前なら行けたであろう山頂部分も、サウナや展望台なんかもあったらしい。この地図に書かれているものは、全て噴火で無くなったと思って良い。

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なぜかトイレだけは真新しいものが設置されていて、観光客向けに用意したものかと思われるが、我々以外に観光客らしき人物はどこにも見当たらなかった。

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他にも雄山の中腹あたりを一周する雄山環状林道沿いに車を走らせる事ができる。立入禁止区域は解除されているようで、一見どこまでも行けてしまうのだが、結局何も見当たらないし道自体が怪しすぎてむやみに深入りすると危険な状況なので、途中で引き返してきた。

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近くの高台の上に伊豆七島が見渡せるという「七島展望台」がある。二男山という山のてっぺんらしいが、赤茶けた溶岩石に一面覆われていて異様な風貌を見せている。展望台から周囲の島々を見ようとするのだが、せいぜい見えたのは距離が近い御蔵島と神津島くらいだった。

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噴火直後のこの一帯は夥しい火山弾の直撃で出来たクレーターがあっちこっちに残っていて道もグッチャグチャでまともに車を走らせられる状態ではなかったようだが、現在は道だけは整地されて綺麗になっている。

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